日本を救う水力発電イノベーション8

「バカの壁」と「採算性の壁」

 しかし、こうした取り組みの多くは、さまざまな壁に阻まれ、実現化していないのが実状だ。ここではこうした事業を妨げる障害、すなわち「壁」について検討してみることとしたい。  一つは、ただ単に、新しい発想で網羅的に全国のダムの開発可能性をチェックしていない──といういわゆる「バカの壁」(養老孟司『バカの壁』)である。  もちろん、「現状制度の枠組み」の中でも広範なチェックは繰り返し実務的に行われてはいるところであるが、例えば大規模な政府の支援策があることを前提とするような現実的制約を解除した網羅的チェックは必ずしも行われているわけではない。  このバカの壁を乗り越えるのに、今、何よりも必要なのは、既存ダムの一つ一つの再開発可能性を公益の視点から網羅的にチェックしていく、という至極当たり前の取り組みだ。  こうしたチェックにおいて何よりも求められるのは、発電会社や資源エネルギー庁、国土交通省などの関係者、ならびに、専門的な技術者が円滑に連携する体制を迅速に作り上げることだ。  そうした連携の下、それぞれの再開発事業が適用できるケースがどれだけあるのかを、客観的に把握していくことが今、求められている。

「バカの壁」と「採算性の壁」

 そしてもう一つの、そしてより深刻な「壁」は、「採算性の壁」だ。前者の「バカの壁」については、関係者の理性的かつ網羅的チェックにより乗り越えることができるが、後者の「採算性の壁」については、少なくとも民間事業者には乗り越え難い。  もしも、水力電源の開発に何の公益性もないというのなら、水力電源開発はすべて民間に任せっきりで行えばそれで何ら問題はない。  しかし、繰り返し指摘したように、水力電源の開発は、エネルギー自給率を上げ、安全保障を改善すると同時に、石油やガス等の資源輸入量を減らすことを通して日本経済を成長させる巨大なポテンシャルを持つ、極めて公益性の高い事業なのだ。  そうである以上、政府が水力電源開発を支援する補助や、電線整備等についての公共投資を行うことは、国益の視点から極めて合理的だ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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