国土保全イノベーション:「砂防」が守る日本の国土2

「砂防」がなぜ、富山の繁栄の最重要理由なのか?

 それは現在の富山市の中枢部をすべて覆い尽くすほどに巨大なものであった。  もしも今、これと同じものが富山市を再び直撃したとすれば、凄まじい人的被害、経済的被害をもたらし、冒頭で紹介したような「まちづくり」や「賑わい」などからはほど遠い最悪の「地獄」に、富山はたたき落とされるであろうことは必至だ。  そもそもこの時の土石流は、「山津波」あ るいは「鉄砲水」と呼ばれる種類のものだった。 水と泥、そして大小さまざまな「岩石」までもが凄まじい勢いで流れていく。  つまりそれは通常の「洪水」と異なり、まさに「山津波」「鉄砲水」と形容するにふさわしい、恐ろしい破壊力を秘めたものだったのである。  しかも、これが一度起こってしまえば、各種の都市施設を破壊するのみならず、大量の土砂や岩石が平野を覆い尽くすことになる。 そうなれば、復興やまちづくりどころか、「復旧」すら、ままならぬ状況となってしまう。  だから今の富山の繁栄には、その土地の状 態を一変させてしまう恐ろしい災いを起こさないという一点が必須だったのである。  そして、こうした恐ろしい災いを防ぐために、 営々と続けられてきた取り組みこそが、「砂防」だったのである。

土砂災害を防ぐための「砂防」

 ここで、富山で行われてきた「砂防」の取り組みを紹介する前に、「砂防」とは一体如何なる取り組みなのかを振り返っておこう。  そもそも私たちが住む日本列島という「国土」はまさに、(私たちの国の)「土」でできている。 だがその国土の「土」は「雨水」によって毎日毎日削られ、大量に流れ出ている。  その流出量は、年間2億tという天文学的な数字だ。例えば大雨が降った時、泥水のようなまっ茶色の大量の水が川を流れている様子を目にしたことは、誰でもあるだろう。  あの「茶色」の正体は 言うまでもなく「土」だ。 そしてもちろん、大雨以外の平常時でも、土(あるいは砂)は、川の中で水によって少しずつ流下し続けている。  つまり、「川」というものは「水」を運ぶだけではなく、大量の「土」や「砂」を運ぶものでもあるのだ。 だからそこに山があり川があればそれだけで、その山は必然的に削られ続けていく。  そして下流部に、その土や砂が少しずつ貯まり、堆積していく。私たちの国土は、こうやって長い年 月をかけて、少しずつその形を変えてきたのである。  例えば、先に紹介した富山平野ができた のもその一つだ。 ただしこうした国土の形の変化が、急激に進む時もある。  大雨や地震、さらには火山の噴火などの時に起こる「がけ崩れ」や「土砂崩れ」、あるいは、地すべり」「山体崩壊」、そして「土石流」だ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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