国土保全イノベーション:「砂防」が守る日本の国土5

「火山」による地形変化と戦う「砂防」  日本列島に地形変化を導いているのは、一つは「雨」を起点とする水の循環であるが、もう一つが「火山の噴火」だ。  青木ヶ原の樹海は富士山の貞観大噴火でできたものだし、関東平野の関東ロームもまた巨大噴火によって堆積したものだ。  というかそれ以前に、この日本列島の形成の中核に噴火の繰り返しがあった。もちろん、こうした噴火は私たちの街を破壊し、数多くの人々の命を奪う巨大な力を持っている。  その典型例が、平成3年に起こった雲仙普賢岳だけの噴火であった。この噴火は大規模な「火砕流」を巻き起こし、43名の犠牲者を出した。  これに加えて、この火砕流やその他の噴火によって大量に堆積した火山灰等が、雨が降るたびに「土石流」となって下流の街に襲いかかった。  こうした状況を受けて、頻発する土石流を防ぐための「(火山)砂防」が求められることとなったのである。  政府はまず、この地を流れる水みず無なし川がわと中尾川沿いに、砂防えん堤の整備や埋塞した土砂の除去、そして、河床の掘削等をはじめとするさまざまな砂防事業を行った。  一方で、火砕流や度重なる土石流で破壊された水無川の下流域において、上流の砂防対策で発生した土砂を使った「かさ上げ」を施し、洪水や土石流の被害をもう二度と受けないように改良するという事業を行った(安中三角地帯嵩かさ上げ事業)。  これらを通して、火山の噴火を原因とする火砕流や土石流によって破壊された麓の街々に「安全」が取り戻された。  そしてその帰結として、長年にわたる砂防事業によってはじめて富山市が発展していったように、普賢岳の麓の街々にも徐々に賑わいが取り戻されてきたのである。  つまり、普賢岳の噴火によって破壊された麓の街々が、「砂防」によってはじめて復活できる縁よすがをつかんだのである。

「火山」に対する対策としての「砂防」

 こうした火山災害は、決して普賢岳だけで起こるものではない。それはどこの火山でも生じ得る。  折しも、阪神・淡路大震災以降、地震活動期に入った日本列島では、火山噴火リスクもまたそれにあわせて高まっている。  ただし、地震や津波、洪水と違って「噴火」については、その被害を「防ぐ」ことが極めて難しい。  地震なら耐震補強、津波や洪水なら堤防等を作って、その被害を「防ぐ」ことができる。しかし、噴火による火山灰や火砕流を「防ぐ」ことは事実上不可能だ。  また、噴火によって降り積もった火山灰による土石流を「防ぐ」ための砂防えん堤を、噴火前に整備しておくことも事実上不可能だ。どこにどれだけの火山灰が降るかを、噴火前に予測することなどできないからだ。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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