国土保全イノベーション:「砂防」が守る日本の国土6

「火山」に対する対策としての「砂防」

 しかし、噴火リスクの高い火山は、あらかじめ特定できているのは事実だ。そして、それらについては常時モニタリングを施すことも可能である。  したがって、被害を防ぐことは困難でも、噴火リスクの高い火山周辺には、普賢岳のような噴火後の土石流に対応する「砂防えん堤」を迅速に整備するための準備をするという対応ならば可能なはずだ。  こうしておけば、火山の被害を食い止めることが難しくとも、その被害を最小化するとともに、迅速な復旧も可能となる。  つまり、「砂防」対策の事前準備は、火山噴火に対する「レジリエンス」(強靭性)の確保において現実的に考え得る最も効果的な対策の一つなのである。

「砂防」という「国土形成イノベーション」

 私たちの国土は日々、変わり続けている。それは、地球の奥底のマントル対流の力と大気を循環する水の力の双方によって導かれている。  私たちの生活時間のスケールから見たとき、その変化のスピードはあまりにも緩やかでゆったりとしている。だから、私たちの多くは、その変化に全く気付いてはいない。  結果、多くの人々は、その変化に伴うさまざまな災害への対策が必要だ、という当たり前のことに気づいていない。  しかし、そんな「大地の変化」に無頓着であれば、我々はこの日本列島で、繁栄を手に入れることなど不可能となるのだ。  そもそも私たちが繁栄を手に入れるためには、数年間という時間スケールでなく、何十年、何百年という時間スケールで投資を繰り返し、都市や地域を作り上げていかなければならないからだ。 「砂防」という、一見「地味」な取り組みはまさに、こうした問題意識の下で、日本人が有史以来営々と繰り返してきた「国土保全」の取り組みだ。 「砂防」という国土の保全行為があるからこそ、それぞれの土地は「自然の変化」に歯止めがかかり、今の形で保全されている。  そしてその結果、私たちはそれぞれの地で少しずつ投資を繰り返し、街を作り上げ、豊かな社会を築き上げることに成功したのである。  例えば富山は、「砂防」があってはじめて、今の富山の姿を手に入れることに成功したのは先に紹介した通りだ。  こうした視点から見たとき、「砂防」は、人類が行う数々のイノベーションの中でも、最も深く、巨大なイノベーションを導く取り組みだという真実が見えてくる。  そもそもイノベーションとは、当該の対象を深い部分で改変していく行為である。  ただし、その当該の対象が、大きな自然のうねりの中で生々流転し、その姿が根底から変わり続けているような場合には、その変化を「抑止」していくという行為もまた、「深い部分での改変=イノベーション」となるのである。  砂防とはまさに、そうしたイノベーションなのだ。私たちの大地、国土は日々変わり続けている─この真実を受け入れたうえで人類の繁栄を目指すためには、どこかの誰かが、あえてその変化に歯止めをかけ、自然との共存共栄を目指すことが必要なのだ。 「砂防」という取り組みはこの真実を見据え、人類の繁栄のために人知れず日々繰り返す、地道な、しかし何よりも偉大なスケールのイノベーションだ。  是非とも多くの国民がこの国土保全イノベーションに光を当て、その努力を支援せんことを祈念したい。  それができた時、私たちの社会は、さらに確固たる繁栄を手に入れられるに違いないのである。 藤井聡著『インフラ・イノベーション』(育鵬社刊より) 著者紹介。1968 年奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。第2次安倍内閣で内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)を務めた。専門は公共政策に関わる実践的人文社会科学。著書には『コンプライアンスが日本を潰す』(扶桑社新書)、『強靭化の思想』、『プライマリー・バランス亡国論』(共に育鵬社)、『令和日本・再生計画 前内閣官房参与の救国の提言』(小学館新書)など多数。
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