更新日:2012年06月03日 17:15
仕事

「ノマド」ブームはワーキングプア製造装置か?

 脱サラ→フリーター→SOHOなどなど、「会社に縛られたくない」願望をすくいとる流行語は移りゆくものだが、いまの流行は「ノマド」である。念のため説明すると「ノマド」の原義は「遊牧民」だが、転じて「組織や、働く場所、時には住む場所にも囚われない自由な生き方」を指す。よりベタに言えば、MacBookAirとiPhoneを持ってカフェを渡り歩くフリーランス、みたいな人たちである。 ノマド  本田直之氏の著書『ノマドライフ』がヒットし、氏の「ノマドライフスタイル塾」(丸1日、15万7500円!)も人気らしい。また「自由自在なノマドワークを実践」する安藤美冬さんが『情熱大陸』(2012年4月15日)で取り上げられたりもした。 「何屋って決めたくないんですよね。職業は安藤美冬」「どこまで自由に生きられるかという、人生を賭けた一大実験ですから」(共に安藤さん)とか、「iPhone自体、ノマディズムですよね」(本田さん)とか、「セルフブランディング」「なんちゃら3.0」だとかが口癖のノマドさんたちに、「超クール…」と憧れる人がいる一方で、「なに寝ぼけたこと言ってやんでぇ」という批判も火を噴き、ノマドは一挙に炎上案件に躍り出たのである。  切り込み隊長こと山本一郎氏は「ただのラベルの違いで『ノマドです』と言われても、『フリーランスですよね』というだけの話」と苦笑する。フリーで仕事を取り続ける困難さは会社勤めの比ではないわけで、人材コンサルタント・常見陽平氏は「”高学歴ワーキングプア”量産装置にならなければいいけど」と案ずる。  そこで週刊SPA!5/22発売号「ノマド入門(笑)」では、ノマドを気取る方法や、ノマドっぽく生きている当人たちが語る意外な「自由と不自由」さ、山本・常見氏らのシビアな見解を特集した。  ところで、「ノマド」という概念を提示したのは、フランスの思想家ジャック・アタリ氏だ。21世紀の政治・経済・社会を予測した著書『21世紀の歴史 未来の人類から見た世界』(2006年、邦訳2008年)に登場する。同書には、2040年頃、以下の3階層ノマドが出現すると書かれている。 ―――――――――――――――――――――――――――――― (1)超ノマド =<超帝国>の支配者、世界で1000万人(つまり勝ち組)。 企業所有者、資産保有者、金融業や企業の戦略家、ソフトウエアの設計者、発明者、法律家、作家、デザイナー、アーティストなどで、多くは自営業者。 (2)ヴァーチャルノマド =定住民(40億人)でありながら、その一部は超ノマドに憧れ、ヴァーチャルにノマドを模倣する。世界のノマド化(企業の現地移転や移民労働者)によって、この中産階級の賃金は下がる。 (3)下層ノマド=1日2ドル以下で生活する貧困層、生き延びるために移動を強いられる人々(35億人)。ますます増大する。 (同書より要約) ――――――――――――――――――――――――――――――  つまり、ノマドは、初めっからシビアな話なのだ。先進国民はほぼ(1)(2)として計算しても、勝ち組・超ノマドになれる確率は0.25%=1000人のうち2.5人。元来ノマディックな華僑やユダヤ人、台頭するインド人・韓国人なども入れてこの確率とはシンドい世界である。ノマドに憧れるのもいいけど、まずはアタリ氏の本を読んでみれば? <文/週刊SPA!編集部 写真/Ed Yourdon from Flickr>
週刊SPA!5/29・6/5合併号(5/22発売)

表紙の人/野宮真貴

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