東京都千代田区「猫殺処分ゼロ」継続中のヒミツ
東京都千代田区が「猫の殺処分ゼロ」を2010年3月末から継続中で、全国から注目を集めている。同区は、皇居や国会議事堂の周辺など、飼い主のいない猫が非常に多かった地域。ほかの自治体では毎年多くの猫が殺処分されているというのに(2010年度は全国で計16万匹)、一体どういうことなのだろうか?
「これは一朝一夕に達成したことではなく、区が13年前から区内在住・在勤ボランティアや動物病院の協力を得て取り組んできた『動物との共生支援ネットワーク事業』の成果です」と語るのは、区のボランティアや獣医などの協力者を中心とするネットワーク「ちよだニャンとなる会」の香取章子さん。
「飼い主のいない猫の問題は行政だけで解決できるものではなく、地域の人たちの協力が不可欠です。本当はすべての猫に飼い主ができるといいのですが、子猫でなければなかなか里親は見つからない。この事業は、飼い主のいない猫に不妊・去勢手術を行い、元の場所に戻して『地域猫』としての一代限りの命を見守っていこうというものです」
猫は生まれて4~5か月ほどで発情期を迎え、子供を産む。放っておけばその子供がまた子供を産み……という形でどんどん増えていく。
「かつては千代田区でも猫をめぐる苦情が数多く寄せられ、餌やりをめぐってトラブルが起こることも数多くありました。そして爆発的に増えた猫たちは自動車にひかれて路上死していく。そのうちの85%が、生まれて間もない子猫という現実もあります」
同事業を進めていくうち、猫についての苦情や路上死体の数は激減。2010年3月以降、区内から都の動物愛護相談センターに引き取られる猫は1匹も出ていない。
現在、千代田区は同事業のボランティアを募集中。区内在住・在勤・在学者であれば誰でも登録可能で、国会議員秘書や丸の内勤務の会社員なども登録しているという。
※【問い合わせ】千代田保健所地域保健課(TEL03-5211-8164)
区民ボランティアによる「地域猫」づくりは、以下のような流れで進められる。
・まず、区の普及員(ボランティア)に登録する。
・飼い主のいない猫を見つけた場合、まず地域猫であるかどうか(耳に手術済みの印があるかどうか)をチェック。
・地域猫でなければ、保健所に連絡して捕獲機を借りる。捕獲機をしかけ、猫が入るのを待つ。
・捕獲機にかかった猫を動物病院に届け、そこで不妊・去勢手術を行う(費用は千代田区から助成金が出る)。
・手術済みの猫を迎えに行き、元の場所に戻す。
「『猫の殺処分』というと、飽きて飼育放棄したり生まれた子猫を捨てたりする人たちが原因だと考える人が多いのですが、実はその数は意外と少ない。大きな原因は飼い主のいない猫の増加で、これを止めるには不妊・去勢手術が不可欠です。そうでなければ、いくら里親探しをしてもそれ以上に子猫が増え続けてしまう。せっかく生まれてきた大切な命を路上死や殺処分で失わないためにも、多くの人に『地域猫』づくりへの関心を持っていただきたいと思います」
【香取章子】
1954年千代田区生まれ。フリーランスジャーナリスト。著書に『猫のたま吉物語~ぼくは大地震にあった』(双葉社)、『猫への詫び状』(新潮社)、『犬と猫のための災害サバイバル』(学習研究社)、『ペットロス』(新潮社)など。
【ちよだニャンとなる会】
飼い主のいない猫のTNR(一時保護、不妊・去勢手術、地域に戻す)活動や子猫の里親探し、動物との共生社会実現に向けての普及・啓蒙活動などを行う。現在、仙台からの「被災猫救援」プロジェクトを実施中(詳しくは同会Facebookページを参照)。
※支援金の宛先:三菱東京UFJ銀行神田支店 普通口座0187929 ちよだニャンとなる会
取材・文/北村土龍
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