更新日:2013年08月23日 13:40
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リスナー多数決でプロ棋士に挑戦「ニコニコ超将棋会議」観戦記

ニコニコ超将棋会議

写真左:えびふらい氏、写真右奥:西尾明六段

 6月22日、東京・千駄ヶ谷の東京将棋会館にて、ニコニコ生放送のリスナーがプロ棋士・西尾明六段に将棋で挑戦するイベント「ニコニコ超将棋会議」が行われた。  このイベントは、コンピュータ将棋ソフト「大合神クジラちゃん」(※1)の開発者・えびふらい氏が企画したもので、放送を観戦するリスナーが専用ツールを用いて指し手を投票し、プロ棋士と対局するというもの。もちろん、リスナーの多数決VSプロ棋士というのは、ほぼ前例のない珍しい企画だ。 ※1「大合神クジラちゃん」は「第23回 世界コンピュータ将棋選手権」(https://nikkan-spa.jp/438662)で独創賞を獲得した。  ニコ生ユーザー発の非公式イベントとはいえ、相手はバリバリのプロ棋士で、記録と読み上げは中村桃子女流初段、リスナー側の指し手代理もプロ棋士養成機関である奨励会の知花賢三段(※2)が担当。さらに対局場は電王戦でもおなじみの特別対局室(※3)と、ほとんどタイトル戦と変わらない環境であった。 ※2 現在、年齢制限ギリギリながら三段リーグで7勝1敗と絶好調中。初の沖縄出身プロ棋士誕生なるかと期待を集めている。 ※3 テニスで言えばウィンブルドンのセンターコート、野球ならヤンキー・スタジアム、サッカーならカンプ・ノウなどのように、東京将棋会館のなかで最も格式の高い、プロ棋士もあこがれる対局室だ。  リスナー側は手持ちの盤面を使ったり、ニコ生のコメントで相談したりすることが可能だが、指し手は多数決によって決まる。そのため、もしもリスナーのなかにプロ棋士クラスの強豪がいても、必ずしもその人の指し手が反映されるとは限らない。プロ棋士を相手に、どれだけの力を発揮できるか、どんな勝負になるのかも未知数だ。  対局はリスナーの先手で、持ち時間は2時間ずつ。今回は特別に、チェスの世界で「フィッシャーモード」と呼ばれるルールを採用しており、1手指すごとにリスナー側に2分、西尾明六段に1分ずつ持ち時間が増える。これによって、指し手を決めるのに時間がかかるリスナー側と、そうでないプロ棋士側の公平性が保たれるというしくみだ。  ところが、対局開始予定時刻の直前になって、将棋会館内のパソコンから投票システムとの通信がつながらず、対局が開始できないトラブルが発生。有志のスタッフが持ち込んでいたモバイルルーターから接続できて事なきを得るという一幕が。ニコ生ユーザー主導のイベントならではの手作り&手探りの緊張感に、筆者も冷や汗をかいたりするなかで、ようやく対局がスタートした。  リスナーの初手▲7六歩に対して、西尾明六段はプロらしく堂々と「なんでもこい」の△8四歩。そこから局面はスルスルと矢倉の定跡形に進んでいく。スタッフからは「プロ相手に矢倉とか大丈夫なのか」という声も上がっていたが、多数決なのでどうしようもない。いずれにせよ、相手はプロである。どんな戦法でも、いい勝負ができれば御の字であるし、本格的な矢倉戦でいい勝負ができれば、勝っても負けても悔いはないのではないか。  結局、戦型は急戦調の矢倉になり、昼食休憩時には、すでに定跡を外れた力勝負の中盤戦に突入。リスナー側のコメントでは、自分たちに甘い手があり、西尾六段に誘導されたのではないかと心配する声も上がっていた。 「ちょっとやってみたい手があったので、この形にしようかなと。リスナーのみなさんに変な手はなかったですよ。35手目の▲1五角も全然ある手ですし、プロの実戦例もあるはずです。むしろ49手目の▲2四歩がいい手で。考えてなかったのでビックリしました」(感想戦での西尾明六段)
49手目▲2四歩

49手目の▲2四歩の局面図。これに△同歩から▲2三歩の垂らしが、いい攻めだったとのこと

 昼食休憩は1時間だったのだが、西尾六段は30分もしないうちに対局場に戻り、盤面を真剣に見つめている。これを見たリスナーからは「もう戻ってきた」「西尾先生マジだ」と本気のプロの対局姿勢に恐れおののくコメントも散見された。非公式のイベント対局とはいえ、将棋盤に向かえばプロである。
西尾明六段

お昼すぎ。スーツの上着を脱いで臨戦態勢に入った西尾明六段

 筆者は取材という立場もあるので、指し手の投票には参加せず観戦していただけではあったが、対局者として参加しているリスナー側のコメントを通して、通常のタイトル戦などを観戦する以上に、プロ棋士の思考と直接対峙する感覚を味わえた。これは、このイベント独特の特徴といえるだろう。  自分たちが考えて指した手が、良いのか悪いのかわからない。プロがいま、何を考えているのかもわからない。とにかく相手はとてもつもなく強いことだけはわかっている。とにかく怖い。もしかすると、プロ棋士がコンピュータと対局するときも、こんな気持ちなのではないだろうか。 ⇒【後編】へ続く※棋譜データあり https://nikkan-spa.jp/467918 ◆ニコニコ超将棋会議 http://voteshogi.hotcom-web.com/wordpress/ ◆えびふらいのタルタルソース添え-ニコニコミュニティ http://com.nicovideo.jp/community/co516151 <取材・文・撮影/坂本寛 撮影/若尾空>
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