無謀なまでの完徹23時間!「将棋電王戦リベンジマッチ」観戦記

菅井竜也五段

菅井竜也五段

 2014年7月19日、東京・千駄ヶ谷の東京将棋会館にて、将棋のプロ棋士・菅井竜也五段とコンピュータ将棋ソフト「習甦(しゅうそ)」が対決する『電王戦リベンジマッチ 激闘23時間』が開催され、ニコニコ生放送にて完全生中継された。

 この電王戦リベンジマッチは、その名の通り、先立って行われた電王戦の好カードの再戦を行うという位置づけのワンマッチで、昨年の大晦日にも船江恒平五段×ツツカナの対局が行われたばかり(結果は船江五段のリベンジ成功)。

⇒【電王戦リベンジマッチ観戦記】プロ棋士に同じ技は2度通じない!?
http://nikkan-spa.jp/573919


 今回のリベンジマッチも、やはり今年3月から行われた『第3回 将棋電王戦』屈指の名勝負を再現するべくマッチメークされたものだ。ちなみに習甦は、このときの対局で『第3回 将棋電王戦』のMVPを獲得している。

⇒人間とコンピュータの戦い再び 第3回「将棋電王戦」第1局観戦記
http://nikkan-spa.jp/609458


 ただし、今回のリベンジマッチには前代未聞のルールが1つ追加されていた。「中断なしで持ち時間が8時間ずつ」。17時、22時、3時、7時に設定された1時間の休憩時間を含めれば、単純な合計で対局時間が20時間を超える設定だ。

 現在1日制の棋戦としては『順位戦』の6時間が最長。朝10時開始の『順位戦』では終局が深夜2時を回ることもあるが、今回は13時対局開始である。つまり、普通に対局すれば終局は早朝になるという極めて異例(※)かつハードなルールとなる。

※夜通しの対局という意味では、2004年6月25日の第63期『順位戦』B級1組の中川大輔七段×行方尚史七段の対局にて持将棋と千日手の都合2回の指し直しが発生し、終局は翌朝9時過ぎとなった前例がある。

 今回の対局は同日に開催された『ニコニコ23時間テレビ』に合わせて企画されたものとはいえ、疲れを知らないコンピューターを相手にした闘いでこのルールを受け入れるのは、実際のところかなり無謀といえる。しかし、そんな無茶をしてでも習甦ともう一度対局したい、リベンジしたいという菅井五段の強い意志によって開催が決まったという経緯がある。

 はたして、このリベンジマッチは、そんな菅井五段の強さと若さとが、まぶしいまでに輝く対局となった。

 菅井五段は、対局開始の13時から45分ほど前の12時15分には将棋会館地下の対局室に入室。通常の対局では10〜15分ほど前からというのが普通なので、ずいぶんと早い入室である。しかも当然正座で、盤の前で終始厳しい表情を浮かべている。ニコ生のコメントでは、長丁場の対局でこれでは、最後までもたないのではないかと心配する声も上がる。

早くも入室した菅井五段に対してニコ生では心配の声が上がる

早くも入室した菅井五段に対してニコ生では心配の声が上がる

 しかし、これはもう菅井五段のスタイルだ。大勝負で多少の入れ込みはあるかもしれないが、そもそも落ち着いて合理的になどとは言えないルールなのだから、もう最初から全力で突き進んでほしい。少なくとも記者はそのように感じていた。

 記者は、菅井五段が勝つとしたら短期決戦だと考えていた。序盤は時間をまったく使わずエンジン全開で飛ばしに飛ばし、先攻する展開にして、できれば優勢な局面で終盤に入り、残り時間に余裕を持って寄せ切る。長期戦だと人間の分が悪いというのは、過去の電王戦でも嫌というほど見てきた。そういう意味でも、この入れ込みようは間違っているとは言えない。

 そして予想通り、対局は開始から20分ほど怒涛のように33手進み、そこから流れが少し止まり始める。内蔵する定跡データベースから外れた局面にさしかかり、習甦が時間をかけて考え始めたからだ。予想外だったのは、菅井五段が選んだ作戦が「居飛車」で、しかも「矢倉」の「棒銀」だったことだ。

 菅井五段は、いわゆる「振り飛車党」として知られている。前回の電王戦の対局では、対コンピュータでは人間の分が悪いと言われるその「振り飛車」にこだわり、真っ向勝負を挑んで敗れた。そして電王戦後の菅井五段は「振り飛車」をほとんど指さず「居飛車」ばかり指していた。したがって、本局の展開がまったく予想できなかったわけではない。

 だが菅井五段は、それでも「振り飛車」でリベンジしたいと思うのではないかと考えていたので、記者の勝手予想は少し外されたことになる。そして「矢倉」の「棒銀」は、菅井五段の直近の人間相手の実戦では出ていなかったので、おそらく対習甦のとっておきではないかとも考えた。

 記者は、習甦と同じく電王戦に登場した「やねうら王」の開発者・磯崎元洋氏から、コンピュータ(※正確にはBonanza系の評価関数)は「矢倉」の「棒銀」に対して穴があると語っていたのをうかがったことがある。習甦にも同じようなクセがあるのだろうか。それにしても菅井五段は、どういう心境の変化なのだろう。

 ちなみに「矢倉」での「棒銀」は、自分の攻めの銀をくりだして相手の守りの銀と交換し、双方が銀を持ち駒にしたとき、相手の守り駒だけが盤面から1枚消えるということを主張する戦法だ。したがって無条件で銀交換されないように対策するのが普通だが、コンピュータは比較的この銀交換を甘受する傾向があるらしい。

 本局の習甦は自分の損になる銀交換は受け入れたが、そのかわりに菅井五段が歩を1枚損するという取り引きで落ち着いた。このやりとりが、のちのちどう響くのか。その後は、交換した角を互いに打ち合って攻め合いに。菅井五段の73手目▲1八飛の局面で、時刻は21時30分。どちらの攻めが先に急所に刺さるのかという勝負だ。

 このころは、プロ棋士の見解も、ニコ生の中継画面に表示されている最強ソフト「Ponanza」も、開発者・竹内章氏のノートパソコンにインストールされた最新版の習甦も、ほとんど互角という意見で一致していた。この局面は瞬間的に先手が銀を1枚得した状態で攻めているので、どちらかと言えば菅井五段のほうがよさそうというプロ棋士が多かったはずだ。

 ここで対局は22時の「夜食休憩」に入った。夕食休憩のあとにさらに休憩があるというのは前代未聞だが、ここまで菅井五段はじっくり考えたいところで、ちょうど休憩に入っている。いい流れである。しかし、休憩明けの習甦の1手が、本局のターニングポイントとなる。

⇒【観戦記2】に続く http://nikkan-spa.jp/683434

<取材・文・撮影/坂本寛>

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