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水泳・冨田選手の窃盗疑惑弁明メッセージは「遅すぎるし、弱すぎる」

 不祥事を起こした際、重要なのはその後いかに事態を収束させるかだ。そんな「不祥事・危機対応」に関して、多くの企業などから相談を受ける長谷川裕雅弁護士が、世間を騒がすスキャンダルの数々を「危機対応力」という面から読み解く――。 【第十回 水泳・冨田選手の窃盗疑惑問題】
日本オリンピック委員会

日本オリンピック委員会HPより

 アジア大会でカメラを盗んだとされる窃盗事件で、いったんは罪を認めた冨田尚弥選手が、一転して窃盗したことを否定する弁明会見を開きました。反応は人それぞれで、別の真犯人がいるのではという人もいれば、弁明に説得力がないと断罪する人もいます。  会見の準備不足は明らかです。日本オリンピック委員会(JOC)と冨田選手は一緒に防犯カメラの映像を確認しているようですが、窃盗の瞬間をとらえた映像が存在しないとする冨田選手の会見直後に、JOCは役員が確認済みとしています。アリバイ主張についても、韓国捜査機関の発表とは時間のずれがありました。食い違いがあってはいけない事柄について矛盾を指摘されてしまうと、信ぴょう性が揺らいでしまいます。アリバイ時刻については、会見中に記者から指摘されたことにより委縮してしまいました。  窃盗の被害品を持っている者が、窃盗事件の犯人かどうかを判断するにあたって、重要な判断基準があります。窃盗事件と時間的にも場所的にも近接した状況で、窃盗の被害品を持っている者が、被害品の所持について合理的な説明ができない場合、窃盗の犯人であると推定されるというものです。  たとえば窃盗事件の現場付近で、事件直後に被害品を押収された場合、不合理な言い訳をすると犯人であると推定されてしまいます。何者かによってカメラをバッグに入れられたなどとする冨田選手の弁明が、合理的であると感じる人にとっては真犯人実在説につながるでしょうし、不合理であると感じる人にとっては説得力に欠けるということになるのでしょう。  冨田選手はアリバイを主張していますが、もともと刑事事件では「後出しじゃんけん」が認められています。捜査機関は「何月何日何時にどこで」という時間的場所的要素を最初に特定する必要があります。疑いをかけられた容疑者は「その時刻に」やっているという証明を崩せばいいのです。特定の時間のアリバイがあっても、ほかの時間に犯行が決行されたかもしれないという揚げ足取りは、捜査機関に認められていません。  つまり、容疑者にとっては、一点突破的に、犯罪時刻とされる時間帯のアリバイを主張できれば十分なのです。冨田選手の弁明時期が遅すぎるとの批判は、もともと認められている後出しじゃんけんを、さらに後出しでやっているという印象があるからでしょう。  すでに刑事処分は下り、日本水泳連盟の処分に対する不服申し立て期間は過ぎています。結果、今後どうしたいのかがはっきりとしない会見になりました。再審請求も「検討」しているとのことですが、韓国の捜査機関に再捜査を希望するという願望を述べるだけでは、メッセージとして弱い。やったのかやらなかったのかも重要ですが、反論の機会がありながらも言い分を述べなかったということ自体が、冨田選手の失敗です。水泳界でやっていくための名誉回復であれば、日本水連の処分に対する不服申し立てのほうが、今回の記者会見よりも重要でした。  冤罪であるとすれば、冨田選手にとっては厄災そのものです。しかし、犯罪の疑いをかけられるのは稀であるとしても、災いが降って湧いてくることは日常生活でありうること。即座に反論をせずに、手続きが終了してから弁明することに対しては、世間は冷ややかです。 「急性ストレス反応」ということですから、外野が言うほど簡単なことではなかったのでしょう。しかし世間の反応を考えると、即座に手を上げる必要があります。詳細は体調が回復してからとしつつも、ひとまずは否定しておくべきでした。タイミングを逃すと、正論を述べても苦しい言い訳と断罪されてしまいがち。酷な要求かもしれませんが、どんなに打ち込まれている状況でも、最低限、ロープタッチに逃れることが大切なのです。 <文/長谷川裕雅 構成/日刊SPA!取材班> ■長谷川裕雅(はせがわ・ひろまさ)■ 東京弁護士法律事務所代表。朝日新聞記者を経て弁護士に転身。現在は政治家や芸能人のマスコミ対策を想定した不祥事・危機対応や、相続問題などにも取り組む。著書に『磯野家の相続』(すばる舎)、『なぜ酔った女性を口説くのは「非常に危険」なのか?』(プレジデント社)、『磯野家の相続入門 – 節税は「花沢不動産」にきけ! 』(中公新書ラクレ)
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