アイドルミュージカルがもたらす可能性――『AKB49~恋愛禁止条例~』SKE48単独公演レポート
3月14日・15日に名古屋栄の中日劇場にてミュージカル『AKB49~恋愛禁止条例~ SKE48単独公演』が行われた。この舞台は、実在のAKB48グループのメンバーも登場する人気漫画『AKB49~恋愛禁止条例~』を原作に、昨年9月、実際のAKB48グループメンバーが演じることで話題となった作品のSKE48版。13日に行われたゲネプロ、そして14日の初回、2回目を取材し、見えてきたその魅力と今後の可能性を紹介する。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=817136
◆王道アイドル路線だった古畑奈和の覚醒
まず本作の主人公である浦山実(のちに女装して浦川みのりと名乗る)を演じた古畑奈和の変化が目を引いた。本作の主人公・浦山実は高校球児だったがケガのために選手生命を断たれた少年で、AKB48になることを夢見るクラスメイト・吉永寛子につらい時期を救ってもらった過去を持つ。そんななか、寛子が憧れのAKB48のオーディションを受けることを知り、あがり症で何度も不合格になっている彼女を女装してサポートしに行くところから物語が展開していく。古畑自身はどちらかというと可愛らしさ愛くるしさが魅力のいわば王道のアイドルキャラクター。前回AKB48グループが本作を公演した際、同役を務めた宮澤佐江はどちらかというと普段からボーイッシュなキャラだったため違和感はなかったが、キャスト決定時から宮澤との舞台経験の差などもあり、関係記者やファンから心配する声も上がっていたキャスティングだった。
本人も会見では「(漫画を書いている)宮島先生からは、『佐江ちゃんはどちらかというと男らしく演じたけど、奈和ちゃんは奈和ちゃんらしい実を演じれないいんじゃないの』と言っていただいて、自分で言うと恥ずかしいですけど、好青年というか明るくて無邪気な高校生の等身大の実を演じられたらと思って頑張りました」と自分なりの演じ方を強調。「男性ホルモンが出たのか声が低くなった」というように稽古が始まって1ヶ月間は意識的に男っぽく振る舞う努力もしてきたようで、叫ぶシーンや男らしく力強いシーンでも不安視されたような姿は見られなかった。逆にみのりのシーンでは本来持つキャラクターを活かしたアドリブで支配人や先生役として舞台に出演した日野陽仁をタジタジにしたりと確かな爪痕を残してくれた。
◆Wキャストでヒロインを演じた北川綾巴と宮前杏実。違った個性の吉永寛子を表現
本作のヒロイン・吉永寛子は普段は大人しい性格のキャラクターとして漫画でも描かれている。そんな寛子を演じたのは16thシングルで松井珠理奈・松井玲奈に代わりセンターを務めた北川綾巴と宮前杏実だった。彼女たちのイメージは真逆で北川がおとなしいタイプ、宮前がハツラツとしたタイプとして認知されており、同じ役をどう演じてくるのかも注目されるポイントだった。
ゲネ前の会見で北川は「演技は絶対できないと思ってたんですが、指導をしていただいて人間できないことはないんだなって思えました」と語り、かつて人見知りでインタビューには答えられない、ダンスも全然踊れないという状態を少しずつ克服していった彼女らしく、新たな壁もうち壊したことをアピール。逆に宮前は「役作りのために前髪を切って気合い十分。稽古も楽しくて本番が楽しみ」とヒロインに抜擢されたことにまったく苦に感じなかったと元気に語った。
実際の演技では、北川はより原作のイメージに近い寛子を演じ、その弱々しく健気に頑張る姿が会場の涙を誘っていた。演技を苦手だと怖がっていた姿はそこにはなく、寛子という役に真摯に取り組む彼女の姿が見ることができた。宮前はどちらかというと独自の寛子を完成させていたように感じた。彼女の持ち前の明るさやおバカキャラでところどころ笑いを生む。本来同じ役は同じように表現したほうがいいのかもしれないが、それぞれの個性を活かす形での吉永寛子がそこにはおり、キャストごとでの違いを楽しめたという意味ではおもしろみのあるWキャストだった。
◆演技を通じて個性豊かなキャラクターが開花
みのりたちが最初に所属する研究生のなかで先輩でもありライバル的立ち位置にいる岡部愛を演じた高柳明音。彼女も本作でいうところの悪役を見事熱演。人生で初めてピンク色に髪を染めるなどその本気度は舞台に熱さを加えた。
また彼女たちのような少数のメンバーを除き、複数役を務めるメンバーも本公演では少なくはなかった。そんななかでも目を引いたのは矢方美紀の存在感だった。もともと吉本新喜劇が大好きで劇場公演でのMCなどにも定評があった彼女だが、ミュージカルのなかでそのコミカルな才能を開花させ、ときに過剰ともとれるリアクションや演技で会場に笑いを生んでいた。神門沙樹もメインキャストではないが輝きを放ったひとり。田舎から東京に遊びにきてAKB48劇場へ行こうとする少女を演じた際は、出身でもある出雲地域の方言を活用し会場を沸かせた。
大場美奈と佐藤すみれなどもミュージカルの要所要所で顔を出し存在感を放った。あげ連ねればキリがないのだが、今回の公演を通して多くのメンバーの普段の劇場では見れない個性がひかり、それぞれに成長が見られたのは確かだ。
◆ミュージカルに懸命に打ち込む姿が感動を呼ぶ
物語自体はチケット1万円の公演を満員にしなければクビという課題や自暴自棄になった岡部を救いケガをするみのり、課題達成のための日々ビラを配り過労で入院してしまう寛子などの展開があり、劇場内ではすすり泣く声が響いていた。
本来ミュージカルなどの舞台に立つことのないアイドルが行うことで、演技やセリフ回しでミスをする部分も出てきてしまったのは確か。しかし、個人活動で舞台に立つメンバーがいたり、卒業後女優を目指すメンバーが多くいることを考えてもアイドルがミュージカルをやるメリットはあるだろう。また、見る側のファンも完璧なものというよりも一生懸命ミュージカルに打ち込み頑張っている姿の集大成を見に来ているという意味合いも強いと感じられ、ファンからの需要は今後も高まる可能性がある。
アイドル業界全体をみても、パロープロジェクトの演劇女子部や乃木坂46の「16人のプリンシパル」など舞台演劇にアイドルが取り組むという試みは徐々に広がってきている。普段のライブ活動、TV出演、握手会などではなかなか頭角を表せなかったメンバーもミュージカルや舞台というステージで花開く人もいるかもしれない。そういった意味ではこういった試みも今後アイドル業界に定着していくのかもしれない。
【『AKB49~恋愛禁止条例~』SKE48単独公演のミュージックナンバー】
1.青春ガールズ
2.ミニスカートの妖精
3.僕は頑張る
4.残念少女
5.夜風の仕業
6.スキャンダラスに行こう
7.LOVE CHASE
8.大声ダイヤモンド
9.RIVER
10.夕陽を見ているか?
11.虫のバラード
12.ウッホウッホホ
13.鏡の中のジャンヌダルク
14.友よ
15.僕の桜
16.君はペガサス
17.AKB参上!
18.会いたかった
<カーテンコール>
19.桜の花びらたち
<アンコール>
20.オキドキ
取材・文・撮影/ヤスオ

ゲネプロ前の囲み取材にて。前列左より宮前杏実、北川綾巴、古畑奈和、高柳明音、日野陽仁、中央列左より矢方美紀、梅本まどか、大場美奈、東李苑、二村春香、佐藤すみれ、山内鈴蘭、後列左より神門沙樹、酒井萌衣、加藤るみ、熊崎晴香、日高優月、山田樹奈
- 肘の故障で野球を断念することになった浦川実を熱演
- 古畑も18歳。等身大の気持ちで高校生という役を演じられた
- オーディションでは緊張する吉永とデュエットをし彼女をサポート
- ゲネでは力みすぎて、岡部愛役の高柳明音をステージから突き飛ばす
- ミュージカルを通して責任感も増し、より凛々しく成長をしてみせた
- 北川の成長にどこか親心を感じたファンも多かったとか
- 同期の仲間と正規メンバー、そしてAKB48の選抜を目指し頑張る
- 苦楽をともにした古畑とゲネの最後には寄り添い合っていた
- 研究生の先輩役を演じた(左から)熊崎晴香・高柳明音・加藤るみ
- オタから動物、男子高校生など多数の役を演じきった佐藤すみれ
- 多数のキャラを演じ、コミカルな演技で会場を湧かせた大場美奈
- 普段はおとなしめな印象の強い東李苑も水野春子役で殻を破る
- 日野陽仁との絡みで大きな笑いを作った神門沙樹
- 足を痛め倒れる浦川みのりを心配そうに見つめるメンバーたち
- メンバーたちの本音のぶつかり合いを剣での戦闘で表現
- ぶつかり合い思いをひとつにしていくメンバーたち
- 過労で倒れた寛子の夢を叶えるため、再び叫ぶ浦山実
- ところどころに挟まる劇中歌が観客の目線を一気に引きつける
- ダンスパフォーマンスでは本来のエネルギッシュな部分を爆発させた
【関連キーワードから記事を探す】
AKB48・村山彩希「このイベントがこれからもずっと続いてほしい」 AKB48Gのトップシンガーが集結したライブが開催
AKB48・水島美結と秋山由奈が成長の一年を振り返る
AKB48の次世代を担う17~19期生。気迫のパフォーマンスで会場を盛り上げた!
AKB48 18期生メンバーがお披露目 柏木由紀は「今が一番生まれ変われるチャンス」と期待
北斗の拳、青の祓魔師、AKB、アイマス……春の新台は高スペック機が目白押し!
元SKE48・古畑奈和、今年の誕生日に驚愕の事実発覚!?カレンダー発売記念イベントに登壇
元SKE48・高柳明音「集大成ではなく“はじまりの一冊”」3rd写真集『あかねのそら』から始まる20周年に向けた夢
SKE48・熊崎晴香「全員が主役」12人選抜で見えたメンバーそれぞれの可能性
SKE48・井上瑠夏、地元銘菓のPR大使に就任!社長に熱弁「新しい味を開発したい!」
「週刊SPA!」1/28号「恋落ちSKE48」#002 荒井優希 QRコード訂正について