なぜ人はブラック企業に洗脳されるのか?
【佐藤優のインテリジェンス人生相談】
“外務省のラスプーチン“と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆なぜ人はブラック企業に洗脳されるのか?
山ちゃん(ペンネーム) 会社員 男性 39歳
いわゆるブラック企業をいくつか渡り歩きましたが、法規の法令違反とは別に、考えること、やっていることがアジアやアフリカの独裁国家と変わらないところがあります。
例えば社員同士の交流を禁止したり、交友関係や外からの情報を嫌う。気分でズル休みは容認されるのに、有給休暇で友人と会う、市役所に行くなどは親の敵のように露骨に嫌がり根掘り葉掘り聞こうとします。
社員にあえて資格を取らせないなど飼い殺しで逃げ場をなくしているとか思えない。この手の企業を改善することは無理だと思いますが、判断力を失った同僚に気づかせる方法はありませんか?
みんな逃げ出せばおかしい企業を排除できると思うのですが。ワンマン体制はなぜ情報統制なようなことをするのか、なぜ洗脳されてしまうのか教えてください。
◆佐藤優の回答
ブラック企業の経営者に、類い希なカリスマ性が備わっていることは間違いありません。従って、こういう人の引力圏に入ってしまうと正常な判断ができなくなってしまいます。この傾向は、ネットワークビジネスと言われる、いわゆるマルチ商法の主宰者によく見られます。新庄耕氏が、大手電機メーカーの関連会社に勤める青年社員ユウキが、ネットワークビジネスにはまっていく姿を見事に描いています。
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街で声をかけてまわり、徐々に自分の下に子会員がつらなりはじめると、木村社長に頼まれる形で、多くの人と面談をするようになった。相手は、木村社長が別に経営するコンサルタント会社のセミナー受講者で占められ、若者が多く、来歴は様々だった。(中略)いずれも何かしらの困難を抱えているのは共通していて、基本的に、することはこれまでと同じだった。話を聞き、そのほとんど全てを肯定し、ニューカルマやネットワークビジネスに対する誤った認識があれば正す。
そうして彼らの中から会員になる者が出はじめ、やがてセミナー講師を任されるほどに傘下のグループが拡大し、派遣の仕事を辞めて活動に専念する頃には、ニューカルマで最も大きなグループを抱えるまでになっていた。
何か自分が特別なことをしたつもりはない。大変な思いをしたわけでもなかった。ただ目の前にいる人の話に耳をかたむけ、正直に向き合いつづけてきたに過ぎない。にもかかわらず、ふと顔をあげると、周りの景色が一変していたのだ……。(『ニューカルマ』201~202頁)
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人間は、仕事や生活で誰もが悩みを抱えています。この悩みに真摯に向き合うような素振りをして、相手から経済的利益を徹底的に搾取、収奪するのがブラック企業経営者の特徴です。ネットワークビジネス自体は違法ではありません。しかし、その中に人間を破壊していく要素が含まれています。ブラック企業も、表面上はアパレル、飲食など立派な職業の看板を抱えています。しかし、実態は仕事を通じて社会に貢献するよりも、従業員と客から、利益を上げることしか考えていません。
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’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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