1000円高速の経済効果を検証してみた
―[道路交通ジャーナリスト清水草一]―
師曰く「デフレ不況下の日本は、政府が積極財政を取りさえすれば復活できる」と。そこで、これまでの高速道路政策はどうだったのか? 間もなく打ち切りの1000円高速を振り返るとともに、私なりの“今の考え”をまとめてみました
清水草一=文
近頃、本誌でも連載中の経済評論家・三橋貴明先生の著書に感動し、初めてマクロ経済学のなんたるかを知った清水草一です。
これまで私は、麻生内閣が始めた「高速道路の土日休日1000円上限」を、混む日を安くする最悪の大衆迎合策と糾弾し、震災を機にそれが終了することを歓迎してきたが、本当あれが愚策だったのか、だんだん疑問になってきた。そこで、打ち切りを間近に控えた今、その経済効果を検証してみることにしよう。
まず国交省道路局に聞いたところ、「土日休日の交通量が全国で3割増えた。本四連絡橋だけだと2倍くらい。観光の振興策としては順調に進んでいると考えている。具体的な数字に関しては、4月以降も継続しているし、無料化政策とも合わせて、現在も分析中」とのこと。
「いつ分析は終わるのか?」と聞くと、「当面、震災対応に追われているのでなんとも……」と曖昧な答え。恐らく分析結果が公表されることはないだろう。なんせ1000円高速は自民党が始めた政策。それを誉めれば民主党政権に不利だし、貶めても一旦は継続を打ち出した民主党に不利。出すに出せないのだ。
となれば、自分でやるしかない。まず交通量。1000円高速が始まった平成21年度(3月下旬から実施)、NEXCO3社の交通量は前年比で13%も伸びた! 翌22年度は無料化社会実験も加わって16%増。リーマンショックで経済はドン底、日本人の平均給与が4%落ちた時期に、これだけ伸びたのはスゴイ。
この時期は深夜割引なども拡充されたので、1000円高速の影響は10%だったと仮定しても、年間売上2兆円(NEXCO3社合計)×1割で2000億円分。クルマで休日に出掛ければたいてい複数人乗車だし、メシを食って遊んでみやげ買ったりするわけだから、経済効果はその数倍にはなったはずだ。
一方、ライバルのJR6社は、同じ年に鉄道事業の売上が2348億円(約6%)下落した。それじゃトントンじゃんと思うとさにあらず、この時期はなにしろ未曾有の世界不況。1000円高速がなくても売上は落ちたはず。直接の影響はマイナス1000億円程度か?
つまり、2500億円/年もかけたこの「1000円高速」、大雑把ながら、数千億円/年の経済効果を発揮して、ドン底だった日本経済を持ち上げるのに貢献したと思われる。
その代償として、渋滞は前年比で約2倍と猛烈に悪化した。この時間損失を杓子定規に計算するとスゴイことになるのだが、休日のレジャーで渋滞にハマったところで、オトーサンの疲労が激増するくらい。実質的な経済的損失は大きくはない。
⇒(後編)につづく
今の日本に必要な高速道路政策とは?
1000円高速の実施によって、交通量は1割以上増加(土日休日は3割増)。渋滞は9割増加したが、不況対策として見れば、その効果は大きかった
◆SPA! AUTO CLUB Vol.684
1000円高速は愚策だったのか?
今の日本に必要な高速道路政策を再考してみました。先生どうでしょう?
文/清水草一
図版/ミューズグラフィック1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中
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