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「ピラミッド建設が日本経済を救う」はなぜ正しいのか?

――日本でも参院選で与党が圧勝するなど、ポピュリズムが台頭する素地があるように見受けられます。どうすれば日本は「反の経済」を脱却し、デフレギャップを解消できるのでしょうか。 木下:戦争という手段がひとつですが、否定されるべきことはすでにお話しました。もうひとつ有効なのは「完全にムダな公共事業」です。たとえばピラミッドの建設。デフレギャップとは「供給>需要」でした。これを克服するには供給を減らすことがひとつ。第2次世界大戦後の日本は戦争で供給能力を壊滅させられたことによってデフレギャップを解消しました。もうひとつの手段が、供給能力はそのままに需要を増やすことです。いま議論されているような経済政策、つまり有効な公共事業を行えばどうなるでしょうか? ――社会に役立つ公共事業、例えば、橋梁の建設や道路の修繕などであれば、需要を高めると同時に利便性の向上により供給能力も高まります。 木下:ムダではない「有効な」公共事業は需要も増えるのですが、同時に供給も上がってしまうので、デフレギャップ解消の決定打にはならないのです。ところがピラミッドの建設ならばどうか。大規模な建設工事は需要を高める一方、しかしピラミッドが生産性を高めることはありません。つまり供給はそのままに需要だけを増やすことができるのです。 ――ピラミッドの建設が日本経済を救う、と。 木下:しかし、公共事業の効率性についてはメディアや世論が厳しくチェックしているので、安倍首相が「1兆円を費やしてピラミッドを建設しよう」などと言おうものなら、総スカンを食らうでしょう。ですから、ケインズが主張した「掘った穴を埋め戻す」ような経済政策は現実的な選択肢とはいえません。 ――戦争は許されない、完全にムダな公共事業も現実的ではない――まだ手段はあるのでしょうか? 木下:「正と反の経済学」の原点に立ち返ってみましょう。ノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士が提唱した「反物質」は、正の物質と双対性(真逆)な性質があります。それは経済でも同じ。「正の経済」では供給が需要をつくるし、「反の経済」では需要が供給をつくるといったように。日本は「正のバブル」崩壊により「正の経済」から「反の経済」へと転換しました。つまり、今、まさに起きている「反のバブル」が崩壊することで日本は「正の経済」へと浮上できる可能性があるのです。むしろデフレギャップがここまで拡大してしまった以上、バブル崩壊以外に日本経済再生の道はない、と言えるでしょう。バブルは必ず弾けます。しかし、今この時点でバブルが崩壊の途上にあるのか、まだまだ膨らむのかは誰にもわかりません。ただ一つだけいえるのは、いくら金融緩和を進めても、「反のバブル」は膨らむだけで、「反のバブル」が崩壊しない限り、日本経済は再生しないということです。
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木下栄蔵・著『資本主義の限界』より

 まさに「異色の経済学」といえるだろう。しかし、これまで世界中のどんな経済学も有効に機能したことはなかった。しょせん机上の空論である経済学に新たな展望をもたらした「正と反の経済学」の詳細は新刊『資本主義の限界』でぜひ確認してもらいたい。〈取材・文/高城泰 撮影/岡戸雅樹〉 【木下栄蔵(きのした えいぞう)】 1949年、京都府生まれ。1975年、京都大学大学院工学研究科修了、現在、名城大学都市情報学部教授、工学博士。この間、交通計画、都市計画、意思決定論、サービスサイエンス、マクロ経済学などに関する研究に従事。特に意思決定論において、支配型AHP(Dominant AHP)、一斉法(CCM)を提唱、さらにマクロ経済学における新しい理論(Paradigm)を提唱している。1996年日本オペレーションズリサーチ学会事例研究奨励賞受賞、2001年第6回AHP国際シンポジウムでBest Paper Award受賞、2005年第8 回AHP国際シンポジウムにおいてKeynote SpeechAward受賞、2008年日本オペレーションズリサーチ学会第33回普及賞受賞。2004年4月より2007年3月まで文部科学省科学技術政策研究所客員研究官を兼任。2005年4月より2009年3月まで、および2013年4月より名城大学大学院都市情報学研究科研究科長並びに名城大学都市情報学部学部長を兼任。8月12日に新刊『資本主義の限界』(扶桑社)を発売
1975年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。編集プロダクション「ミドルマン」所属。株、FX、仮想通貨など投資関係の記事を幅広く執筆。著書に仮想通貨の入門書『ヤバイお金』(扶桑社)、『FXらくらくトレード新入門』(KADOKAWA)など
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資本主義の限界

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