ミック・フォーリー インタビューPART1 デスマッチの精神性――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第215回(1996年編)
――テリー・ファンクもかなりの火傷と裂傷を負ったようです。
「テリーのほうがわたしよりもはるかにひどい状態だったんじゃないかな。彼がスープレックスでわたしを有刺鉄線ボードの上に落としたときは、まるでマシンガンからなにかで体じゅうを撃ち抜かれたような、なんとも表現のしようのない衝撃を感じた。チラッと彼のほうをみたら、技をかけた彼のほうが爆弾の真上に倒れていた。爆発が起こった瞬間、わたしはもう本能的にボードからころげ落ちてのたうちまわっていた。熱いとか、痛いとか、そういう感覚よりも、あっ、やってしまったという直感かな」
「テリーは試合のあとすぐに病院に直行したけれど、わたしはかなり時間がたつまで左耳がブラブラになっていたことも、左目の上がざっくりと切れていたことも、腕の火傷にも気づかずにいた。アドレナリン効果ってやつで、痛みはあまり感じなかった」
――アドレナリン効果、ですか?
「わたしがどれくらい長い年月、テリー・ファンクを倒すことを夢みてきたか、たぶんだれも知らないだろう。それも日本のリングで彼を倒す夢をね。オブセッション(強迫観念)ってやつさ。川崎スタジアムの1日は、わたしのレスリング・キャリアのなかでいちばん長い1日だった。その1日の終わりに、わたしはわたしのドリームを現実のものとした。気がついてくれた観客はあまりいなかったかもしれないけれど、試合が終わったあと、わたしは彼に握手の手を差し出した」
――リング上で、ですか?
「そう。でも、もうその時点で彼は自分の力では立っていられないようなコンディションだったから、けっきょくわたしたちは握手を交わさずに別れた。彼が意識的にシェイク・ハンドを拒んだのか、それともそれどころではなかったのか、それはわからない。わたしは、わたしといっしょに地獄を体験してくれ、そして、ともに生還してくれた彼にお礼がいいたかった。これまでレスリングをつづけてきたのは、テリー・ファンクと闘うためだったんだ。彼はわたしのヒーローなのだ。そして、わたしの努力は報われたのだった」
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