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大統領選後のアメリカは憎悪によって引き裂かれる【国際政治学者・三浦瑠麗氏インタビュー】

――トランプ氏の強さの源泉はどこにあるのか。 三浦:トランプ氏がこれほど躍進したのは、現在のアメリカの姿を的確に捉え、アメリカ国民の本音を体現しているからにほかならない。今のアメリカは“普通の国”化したがっており、かつてのパックス・アメリカーナはもはやない……。冷戦に勝利し、グローバリゼーションを牽引して世界経済を上向かせ、自由と民主主義を広めるために努力した結果がこれか? というアメリカ人の不満を、トランプ氏は代弁しているのです。民主党の候補者指名をクリントン氏と最後まで争ったバーニー・サンダース氏は、左翼側から人々のリアルな感情を捉えたが、トランプ氏は中道から右の層の感情をすくい上げているわけです。この2人が、なぜ国民の気持ちを汲み取ることができたのか? その理由は、2大政党制の下、いわば人為的に引かれた政党のイデオロギーの枠と、その枠に本来もたらされるべき利益が、かけ離れたものになっているから。政党とその支持層が得る利益が釣り合っていないのだから、本当は、支持者は政党や候補者を乗り換えたり、第3党に投票してもおかしくないのです。ただこれまでは、たまたま宗教的な属性や、白人ばかりの田舎で育ったかどうかといった経緯論によって、「オレは共和党」「私は民主党」と、どの政党を支持するかが予め決まっていた感がある……。結局、人間のイデオロギーなんて、せいぜい好き嫌いのレベルなんです。トランプ氏やサンダース氏は、雰囲気ベースの言い方で左右の好き嫌いの感情を反映しつつ、その一方で政策的には、ポピュラーな支持者の利益になるような政策に転換しようと打ち出しているのです。 ――トランプ氏は、大統領選を通じて何をいちばん訴えたかったのか。 三浦:暴言など、メディアが報じる表層的なイメージに隠された格好ですが、トランプ氏が本当にやりたいのは「国益の再定義」だと思います。国益とは、納税者、ビジネスマン、地方の町々の国益であり、中東派兵のような経路依存的な軍事介入から脱却し、共和党の白人層にも分配(利益)を引っ張ってきて、投資や金融ではなく、製造業をはじめとする地場産業を復権することが、トランプ氏の目指すアメリカなのです。(支持率を見てもわかるように)トランプ氏は、現在のアメリカの半分を体現していますが、残り半分の世界観を完全に分断してしまった。結局、トランプ氏が有権者の4割しか取れないのは、彼とは異なる世界観も厳然と存在しており、これがまさに、現在、真っ二つに割れているという今のアメリカの姿そのものなのです。全米の支持率を見ると、僅差でほぼ拮抗しているが、大統領選は基本的に勝った候補がその州の選挙人を総取りする方式なので、思わぬ差をつけてクリントン氏が勝つかもしれない。でも、仮に大差がついたとしても、今回の選挙結果のみが、今のアメリカの姿を表しているとは言えません。
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アメリカ社会の「分断」がさらに加速する恐れも
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