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ポール・ヘイメン インタビューPART2「ECWをつくった男」――フミ斎藤のプロレス講座別冊WWEヒストリー第245回(1997年編)

――レスラー同士の人間関係はどうですか。トップグループとされるメンバーと前座レベルの選手たちの関係にジェラシーの感情というか、そういったものは? 「まわりにいる人間がどうしているかよりも、みんな、自分がこれからどうしたらいいかを真剣に考えていますよ。あるレスラーが試合を終えてドレッシングルームに戻ってきたとします。そうすると、ドアが開いたとたん、10人ものレスラーが彼のもとに歩み寄っていく。あのときのヘッドロックはこうやってホールドしたほうがいいとか、あの技をやるときはもっと自分の足を広げていたほうがいいとか、あの場面ではあれをやっちゃダメだとか、その場で反省会がはじまる。ECWは運動体なんです。プロレスをもっとおもしろくしようと、みんなが頭を使っている。だから、ドレッシングルームのムードはすごくいい。月曜の夜、テレビでやっているような、ああいうことはやりたくないんです」 ――やはり、メジャー団体に対する意地というか、反骨精神なんですね。 「ブロードウェイの芝居にはこういうことわざがあります。“ユー・アー・オンリー・アズ・グッド・アズ・ユア・ラスト・パフォーマンスYou are only as good as your last performance”。最高の役者だって、たったいま演じ終わった芝居がこれまでの最高のパフォーマンスだった、ということ。つまり、次にやるときはもっといいものが出せるということです。プロレスもそれと同じで、たったいま最高の試合を闘い終えたと思っても、その次の試合ではやっぱりそれ以上のレベルのものを追求してみたくなる。クリス・ベンワーはその典型でした」 「クリスは完ぺき主義者でした。WCWと契約するまえは、彼はECWのリングに上がっていたのですが、わたしの目からみれば、彼はいつでも完ぺきすぎるくらい完ぺきな試合をやっていた。それこそ、だれだって彼の直筆サインがほしくなってしまうような、そんな試合をね。でも、彼は絶対といっていいほど自分の試合に満足しないレスラーだった。いつも“ガッデム”と叫びながらそのへんの壁を蹴ったりしていました」 ――メジャー団体やほかのインディーから流れてきたメンバーはどうですか。 「ひとつだけはっきりしていることは、メジャーリーグと呼ばれている団体、とくにわたし自身が働いていたほうのカンパニー(WCW)では選手たちのモチベーションを殺してしまう巧妙なメカニズムが機能していた。あそこではトライすること、学ぶこと、成長しようとすることが“悪”になってしまうんです。悪党マネジャーをやっていたころのわたしがそうでした。どうでもいいや、という気持ちになっていました」 「メジャー団体では、こうしたい、ああしたいというアイディアを持つことが許されない。いい試合をやろう、なにかおもしろいことをやってみようなんて思っちゃいけないんです。がんばっても、がんばらなくても、だれも気にもとめない。ひと握りのスーパースターたちが永遠にスーパースターでありつづけるんです。エグゼクティブたちは試合自体もろくに観ようとしないし、プロレスというジャンルをほんとうに理解しようとはしていない。また、その必要もない。そんな状況を目の当たりにすると、これからというレスラーたちは絶望してしまうわけです」
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メジャーリーグは年俸制で、ECWよりもずっといい。だが…
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