漫画研究会に舞い降りた天使?悪魔? 次々と男を乗り換える女【サークルクラッシュ事件ファイル③】
2014年2月14日(金)「八代の家で」
「はぁ、彼氏ほしい」
当たり前のように八代の家に来ていた里奈がつぶやく。里奈はいつものように気ままだった。
「4月からは別のサークルの新歓行ってみようかなあ。2年生でも入れるとこってあるだろうし」
そんな里奈に対して、あまり喋らない八代が口を挟む。
「あのさ」
「ん、何?」
少しの間沈黙する八代。里奈はもはや八代に対して敬語を使うことはなくなっていた。
「いや、あの」
「どうしたの?」
「さっきあげたチョコレート、本命、なんだよね」
「え?」
「僕じゃダメかな、僕とならたぶん、うまくいくよ」
堅くなっている八代の表情を見て、里奈は困った顔を隠せなかった。
「いやいやいや、それはちょっと。だいたい、八代は私とそういう関係にならないって話だったでしょ」
「いや、なんというか。気づいてなかったのかな。だいぶ前から僕は里奈のこと、好きだったよ」
「……ごめん、全然気づかなかった」
里奈にとって八代は、愚痴を聞いてくれる便利な相手だった。友人として信頼はしているが、恋愛感情はまったくなかったのだ。
結局、この告白事件もあり、里奈は八代とも気まずくなった。ご察しの通り、漫研の間では里奈がとっかえひっかえ男と付き合う女だという認識は広まってしまっていたし、特に女性で仲の良い人が漫研内にはいなかった。あるとしても表面的な付き合いがあるだけだった。
里奈は結局1年で漫研を辞め、4月からは他のサークルの新歓へ行くのだった。
―――――
いかがだっただろうか。今回の事例はあまり「クラッシュ」とは呼びにくい事例だが、恋愛体質でマイペース、飽きっぽい性格の里奈は同じ集団内で早いスパンで「とっかえひっかえ」恋愛をしていった(また、「小動物的で天真爛漫な」可愛さから男に好かれた)。里奈は前回の加奈子のように同時に複数の人と付き合ったり性的関係を持ったりしたわけではないが、結果的に集団内の人間関係はギスギスしたものになっていった。里奈もそれに居心地の悪さを感じ、なんとなく退部していった。
このような場合、「誰にクラッシュの責任があるのか」を問うのはとても難しいものになってくる。里奈は確かに、片想いされるのも含めて様々な人と恋愛関係を持ったが、それはただただ自分の思うように振る舞った結果であり、「自由な」恋愛の範疇で行動している(現に、若松自身は里奈に告白し、藤山も高本も里奈と付き合うことに合意している)。そういう意味ではサークルクラッシュは、「クラッシャー」と「クラッシャられ」、男女両性の「共同作業」によって起こる、悲劇的なミスマッチ現象である。個別の事例を見ればクラッシュの「原因」となる人物は存在するだろう。しかし、それはあくまで私的な「恋愛」でしかないのであって、公的な「責任」を問うことは難しい。一人の女性を糾弾して「クラッシャー」や「ビッチ」などと叩くのは思考停止に過ぎないのだ(「男が悪い!」もそれを裏返しただけである)。
とはいえ、私たちはクラッシュに対して無力なわけではない。そのような悲劇を避けるためにできることはあるのだ。それに、恋愛の9割は失敗に終わるものだ。だからこそ、失敗を今後に活かしていく視点が必要である。そのためにも私たちはまず、クラッシュのパターンと、その原因には何があるのかを冷静に理解していくべきだろう。
数多くの事例を見聞きしてきた私の分類では「クラッシャー」は大きく4分類、「クラッシャられ」は大きく2分類できると考えている。今回の事例の里奈はタイプ2「とっかえひっかえ型」のクラッシャーだった。ストーカー化した若松と、恋心を打ち明けて気まずくなってしまった八代が「受動型」のクラッシャられだったと分析できる。(広橋、藤山、高本は集団に居づらくなるほどにはなっていないように思われるので、たまたま里奈と繋がっただけであり、「クラッシャられ」的パーソナリティを持っているとは言いがたいだろう)。
次回以降もサークルクラッシュの事例を紹介し、最後にまとめて比較・図示することでそのメカニズムの全貌を明らかにしたい。
【ホリィ・セン】
1991年生まれ。京都大学大学院生。社会学専攻。研究テーマは恋愛。「サークルクラッシュ同好会」代表。オープンシェアハウス「サクラ荘」代表。2012年から発行している同好会の会誌はコミックマーケットや文学フリマ等で頒布され、通算1000部以上の販売実績がある。2015年より「サクラ荘」を立ち上げ、生きづらい人々の居場所の問題について考えている(@holysen)
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