実は「乱発」ではないトランプ大統領令 中国の為替操作国指定はあるか?
中岡氏によると、この大統領令と大統領覚書との間に、大きな差はないという。
「どちらも議会の審議を経ることなく、行政機関の責任者に対して行政の執行の仕方を指示するためのもの。だから、オバマケアの撤廃に関する大統領令は撤廃に向けて、『現行のオバマケアが国民に強いる経済的負担を最小限にするように』と各省庁に指示を出すための令だったのです。行政機関に対する命令、ないし通達でしかないので、議会審議を経て制度化されたオバマケアそのものを撤廃するほどの効力はない。大統領覚書も同様です。TPP離脱に関する覚書を読んでみると、『ロバート・ライトハイザー通商代表部代表に対して、アメリカがTPP交渉から離脱することをTPP関係国に書面通告するように指示する』ということが書かれているだけなのです。この両者の違いは、簡単に言うと官報である連邦公報に載るか載らないか。大統領令のほうが、アメリカ国民の生活に直接的に影響を与える傾向が強いため、官報への掲載が義務付けられているようです。一方の大統領覚書には掲載義務がない。ただし、大統領の指示があれば掲載することもある。TPP離脱の覚書は、トランプ氏の指示があったため、官報に掲載されています」(中岡氏)
それなら、ほぼ一緒では……? と思った人も多いはず。実は、大統領令と大統領覚書そのものからして、非常にあやふやなものなのだ。そもそも、どちらも合衆国憲法で規定された政策手段ではない。あくまで、「暗黙の法的権限にすぎない」(中岡氏)のだという。
「合衆国憲法の条文には、日本の法律のように内容が細かく書かれていません。非常に簡潔な条文で構成されているのです。要は、憲法の解釈次第。一般に、大統領令や大統領覚書の根拠は、合衆国憲法第2章第1条の『執行権は大統領に属す』と同3条の『大統領は法律が忠実に執行されることに留意する必要がある』という条文にあるとされています。これらを、『法律が忠実に執行されるように留意していれば、議会審議を経ずに大統領の執行権でもって行政機関を動かすことができる』と拡大解釈しているのです。解釈でもって暗に認められた権限にすぎないので、1952年には大統領令の合法性を巡って訴訟も起きています。トルーマン大統領が大統領令により労働組合のストを禁止したことに対して、企業が異議を申し立てた結果、最高裁は憲法違反であるとの判決を下したのです。トランプ氏のイスラム圏7か国からの入国を禁止した大統領令に関しても、各地で違憲訴訟が起きている。アメリカ国民はもとより、共和党内からも反発の声があがって政府が釈明に追われていることもあって、メディアは『トランプ最初の敗北』と報じています」(中岡氏)
結局のところ、大統領令も大統領覚書も、万能ではないのだ。最高裁で違憲と認められれば、当然のことながら効力は失われる。それ以前に、予算の裏付けを必要とする経済対策には適さない。予算案を議会が承認しないことには、執行することができないからだ。トランプ氏の大統領覚書に当てはめると、メキシコとの国境に壁を建設するプロジェクトなどは、予算に関して議会の承認が得られなければ実現しない可能性もある。さらに、議会が「大統領令は法的な効果を持たない」という法律を成立させれば、無効化することも可能だという。
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