ライフ

家賃4000円の部屋で30円の古着おしゃれを楽しむ、海外年金暮らしの66歳~日本を棄てた日本人~

 そんな彼の日々の楽しみといえば、炎天下、ヨレヨレの自転車で8キロも離れた日系図書館に通い、数日前の古新聞をなめるように読み漁ることと、地元民もひるむ場末の露店で30円、40円の古着を漁ることくらい。
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洗濯すると損をしてしまいそうな30円の古着

 極度の人間不信から日本人の友達もほとんどおらず、大家であるF原のことも「ワシを騙そうとしている」と警戒しており、ほとんど会話らしい会話は無い。  余談だが、警戒されたF原もまんざら善人ではなく、1キロワット800リエル(20円)の電気代を、茂田に対して3倍も水増しし、差額をポケットに入れている。  これ、カンボジア人の大家は大概やっているセコい財テクだが、相手は気温40度でも扇風機を使わず、夜7時には部屋を真っ暗にして寝てしまうモンスター。さすがのF原もこれにはお手上げだった。
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来客時のみ灯される15Wの電球

 そんな地獄のアパートに、時折ひょっこり現れる可愛らしいお客さん……。天使のような笑顔が素敵な、わずか5歳のカンボジア人少女である。  同じスラムに暮らすこの少女、困窮外国人がよっぽど珍しいのか、ヒマさえあればアパートにやって来ては、キラキラと輝く瞳で(基本、ドア全開の)F原や茂田の部屋を覗き込み、ニコニコと人懐っこい笑顔をふりまく。  近所のガキどもを虫けらのように追い払うF原も、この少女だけは特別扱い。駄菓子をエサにおびき寄せ、簡単な日本語を教えたりしていたが、常日頃、これを苦々しい顔で見守っていた茂田が、思い詰めた顔でF原に物申した。 「F原さん、言いたかないけどあのガキ、甘やかさんほうがええですわ……。そのうち虐待だのセクハラだの騒ぎよって、慰謝料がっぽり取る魂胆かもしれへん」  相手が5歳児だろうと油断を怠らない警戒心。  さらには毎朝、近くの市場をうろつき、地面に落ちたキャベツや白菜の切れ端を黙々と集め、炒めたりラーメンに入れるなど、サバイバル能力も特殊部隊顔負け。  日本の年金制度がどのように崩壊しようと、このおっさんは絶対生き残る。まさにハイエナ並みの生命力。見習おうではないか。 【クーロン黒沢】 東京生まれ。90年代からアジア(香港・タイ・カンボジアなど)、洋ゲー、電話、サバイバル、エネマグラ等、ノンジャンルで執筆。強盗・空き巣被害それぞれ一回、火事・交通事故(轢き逃げされた)各一回、その他、様々なトラブルを経験した危機管理のプロ。現在は人生再インストールマガジン『シックスサマナ』発行人。同名のポッドキャストも放送中。 <取材・撮影・文/クーロン黒沢>
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