プノンペンで寸借詐欺をして生き延びた男の末路~日本を棄てた日本人~
──軒先で3日寝泊まりしている日本人のホームレスです。誰かこの人の身元を知りませんか?(カンボジア語)
今年9月、フェイスブックをダラ見していたときのこと。あるカンボジア人が投稿した「日本人ホームレス」の写真を見て、私は腰を抜かしかけた。そこに写っていたのは、すでに死んだと思い込んでいた、浅からぬ因縁の「K満(仮名)」という男だった。
今から7~8年ほど前、私が住むプノンペン郊外の名もなき市場の脇に、小さな食堂がオープン。テーブルと椅子を並べただけの看板もないお店だが、物珍しさでうっかり足を踏み入れたのが運の尽き。全ての初まりだった。
「いらっしゃい! もしかして日本人? 珍しいねえ。ワタシ、沖縄から来たんですよ!」
がらんとした店内でひとり暇そうにしていた、エプロン姿の人懐っこい初老男性が、にっこり笑みを浮かべ、日本語で声をかけてきた。
その男、K満は、大柄なカンボジア人妻とふたり。見渡す限りローカルしかいないこの場末に、日本飯・カンボジア飯を出す小さな食堂を、つい先週オープンしたばかりだった。
日本人が増えたとはいえ、どうしてわざわざ、ビジネスマンも旅行者も皆無な中途半端ゾーンを選んだのか……。疑問は尽きないが、個人的には、住み家からすぐの近所に日本人経営の食堂が出来たのが素直に嬉しく、3日に一度は通うようになった。
トンカツ、焼き魚、ソーキソバ等を出すK満の店は、いつもガラガラ。常連は私を含む数名の世捨て人。そのほか、50セントのコーヒー1杯で朝8時から夜9時まで居座り、無料のお茶をひっきりなしに飲みながら、店の電源でノートPCを充電、店のWi-Fiでネットに励む、寄生虫みたいなカンボジア人が数名。以上である。
客が客ならジャガー横田に瓜二つなK満の妻も掟破りの大食漢。
いつも腹をすかせ、エビフライなどは厨房から客席に運ばれる間に2本しかないエビが1本消えることも珍しくない。指摘しても謝罪はない。いい歳こいたジジイとババアが白目をむいて罵り合う人生劇場が目の前で展開されるだけ。これでは客足が遠のくのも無理はない。
「黒沢さん、悪いけど来週まで300ドルばかり貸してくれないかな……。すぐ返せるから、ねっ?」
ある日、食べ終わるやK満から借金をねだられた。普段、貸し借りしない主義の私も、ペコペコおじぎする夫の脇でだらしなく長椅子に横たわり、客を無視してテレビにバカ笑いするデビル雅美を前にいたたまれなくなり、つい貸してしまうのだが……。
「アラ、黒沢さんもマスターに金貸したの? もっと気合い入れて取り立てないと戻ってこないぜ」
金を貸したことすら忘れかけていたところ、常連客のひとりからこんな注意を受けた。そのときK満に千ドル近くも貸していた彼は、真剣に返済を迫ったものの、無いものは無いんですわと開き直られ打つ手なし。
さらにK満は、我々以外にもプノンペン中の日本人から手当たり次第に少額の借金をしまくり、のらりくらりと返済を逃れていることがわかった。負債総額は借りた本人も分からないほどだった。
「あのジジイ、日本に帰る気なんかねえよ。沖縄で会社潰して、2億の借金踏み倒したままカンボジアに逃げてきたのさ……」
借りた金を踏み倒しながら、毎晩のようにクラブをはしごするK満。食堂は半年で破綻、気の強い妻は彼を見捨てて家を出た。
余談だが、K満が潰した食堂の所有権は彼になく、開業資金を用立てたのは、うまく丸め込まれた20代の日本人大学生。こいつも困り果てていた。流石と言うか、筋金入りのペテン師である。
それでもなお、顔とトークは実直そのもの。だからこそ、騙される者が後を絶たないのだろう……。
プノンペンで開いた日本食堂が経営難に…寸借詐欺で生き延びた男の末路~日本を棄てた日本人~
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