1000万円を握りしめて国外逃亡。地球脱出まで目論む元トラックドライバー~日本を棄てた日本人~
「ハンバーガーいきまひょ、ハンバーガー!」
まこと古い話で恐縮だが、20年前、カンボジアのプノンペンに住んでいた私の部屋を頻繁に訪れる、風変わりなおっさんがいた。そのおっさん「M川」は40代半ばの元トラックドライバー。その頃、私はまだ20代そこそこのガキだった。
関西(のどこかは不明)出身のM川は、英単語を6つくらいしか知らず、日本人とみれば声をかけ、機関銃のようにあれこれ質問しまくり、同じ話を繰り返すという癖もあったため、プノンペンに住む旅慣れた旅行人のオヤジたちからは若干ウザがられていた。
私の場合、齢の差が20もあると邪険にもできず、来ればやさしく接していたが、知れば知るほど、謎の多いおっさんだった。
トラックドライバーで稼いだ一千万円を胸に日本を飛び出し、帰国予定はなし。当時むちゃくちゃ治安が悪く、まともな旅行者は近づかないカンボジアにふらりと現れ、こんな抱負を語るのである。
「大阪はひどい町でっせ。二重駐車、三重駐車は当たり前(※20数年前の話)。停めたと思ったら後ろから怒鳴られて、もう生き地獄ですわ……。ワシ、死ぬまでアジアで暮らしますさかい。このカネ無くなっても日本には戻らへんで。いっそビルから飛び降りて死んだほうがマシですわ!」
そう言いながら“このカネ無くなったらビルから飛び降りる”一千万円で、ハンバーガーなんかをおごってくれる。
「姉ちゃん! これ、ダブルハンバーガーや。あと、ポテトもひとつ頼むで。ワン、ポテトや! でっかいほうな。Lやで!」
ハンバーガー屋でもタダではすまない。再現するのは難しいが、関東人がようやく聞き取れるギリギリの、ベタベタな関西弁でひとしきり好き勝手にオーダーを連呼して、店員を呆然とさせる。
「おい姉ちゃん。バーガー言うたやろ? バーガー! バーガーワンや。ポテトのLもわからへんのか!」
カンボジア人の店員が怪訝な顔をするたび、徐々にブチ切れてゆくのがM川の真骨頂。
「バーガー屋が英語もわからへんて、一体どういうこっちゃ! 黒沢さん、ワシ間違ごうてまっか? 間違うてへんやろ? 姉ちゃん、おいバーガーや!」
どのへんが英語なのかはともかく、顔を真っ赤にしながらバーガーバーガー怒鳴り散らした挙げ句、翌日また同じバーガー屋に行ってしまう心の広さも素敵だった。
ハンバーガーを食べながら地球脱出を目論む元トラックドライバー~日本を棄てた日本人~
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