カール・ゴッチからのお手紙――フミ斎藤のプロレス読本#054【カール・ゴッチ編エピソード2】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
“神様”から手紙がきた、なんていったらまるで超常現象のようだが、ぼくはほんとうにぼくの神様からお便りをいただいた。
もちろん、カール・ゴッチがいきなりぼくなんかに手紙をくれたわけではなくて、それはぼくがゴッチ先生に出した長い手紙への返信だった。
ゴッチ先生とおはなしがしたかったらフロリダのタンパのお家に電話をしてみるという方法もあることはあるけれど、どうやらあの年代の人たちは電話というものがあまり得意ではないらしい。
ゴッチ先生も、だらだらと長電話をするのがお好きではないようで、用件だけ話すとさっさと受話器を置いてしまう。
ぼくは、ゴッチ先生のおトシをちょっとだけ意識して、そしてご無礼のないように、できるだけていねいな候文(そうろうぶん)をしたためた。
ゴッチ先生からのお返事はこんな感じだった。
「貴君からの手紙、たしかに落手いたしました。貴君はまだズボンを2枚重ねて履いているのだろうか……」
ゴッチ先生は、ぼくが穴ぼこだらけのジーンズの下にスパッツを履いていたことをおぼえていてくださった。でも、そんなことはどうでもいい。アンティーク調の古風な手動式のタイプライターでつづられたお手紙には、先生の近況がことこまかに書かれていた。
奥さまのエラさんが病気――皮膚がん――になってしまったため、いまは1日おきにエラさんを病院へリハビリに通わせていてること。ゴッチ先生自身も持病のヒザの関節炎の治療に励んでおられること。
いまでも毎朝、日の出とともに起床して、自宅の道場でケイコをつづけていること。もう1年以上、日本に行っていないが、エラさんの状態が落ち着いたら、また1カ月くらい日本に行きたいと考えていること。東京の銭湯の熱い湯につかりたいこと。エトセトラ、エトセトラ。
便せんのところどころに修正液や消しゴムのあとがある。老眼鏡をかけてタイプライターと格闘するゴッチ先生の姿が目に浮かんでくるようだ。
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