カール・ゴッチからのお手紙――フミ斎藤のプロレス読本#054【カール・ゴッチ編エピソード2】
いつも驚いてしまうのは、ゴッチ先生のおはなしの内容がつねに首尾一貫していることだ。あるひとつのエピソードを語ってもらう場合、こちらがいつどんなシチュエーションでそれをたずねても、ゴッチ先生が話してくれるストーリーはまったく変わらない。
もちろん、かなりのおトシだから、同じことを何度もくり返してしゃべったりするクセはあるけれど、記憶力がすごくよくて、もっとすばらしいのは、おはなしのいちばん大切な部分――メッセージ――がそのときそのときの状況によって都合よくひん曲がったりしないところなのだ。
順序だてながら質問すれば、アントニオ猪木との思い出を語ってくれたりするし、アメリカでの武者修行時代の藤波辰爾のことや旧UWFのこともしゃべってくれる。
ゴッチ先生は、いまだって藤原喜明、佐山聡、前田日明らひとりひとりとゆっくりおはなしがしたいと思っている。ゴッチ先生にはどうしてみんなが仲よくできないのかがわからない。
お手紙の終わりのほうにはこんなことも書いてあった。
「若いうちはシュッドShouldだが、トシをとったらマストMustなのだ」
毎日のトレーニングのことである。年齢をかさねていくにしたがってゴッチ先生の朝ゲイコはますますストイックなものになっている。
もうリングに上がることなどないのに、ゴッチ先生は毎朝、たったひとりで汗だくになってスクワットをつづけている。それも、チューインガムを噛みながら、鼻歌まじりでだ。
神様はあくまでも神様らしく、俗世間――たとえばプロレス界――の雑音とはまったく関係のないところで暮らしている。だから、現実的なトラブルをゴッチ先生の生活圏内に持ち込んだりしてはいけない。
でも、神様からインスピレーションをいただくためにフロリダを訪れることはいっこうにかまわないらしい。ゴッチ先生は「みんな、ウェルカムです。でも、忍者スタイルはお断り。いきなりわたしの家のまえに現れてはいけない。まず連絡をよこしなさい」とルールを説明してくれた。
手紙の最後の1行は“ザット・オールド・マンThat Old Manより”だった。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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