なにかに怯えて生きてきた
――『劣等感』というタイトルの意味は?
関本:僕は劣等感の塊というか、ずっと劣等生なんです。中学から入った明徳義塾でもそうですし、幼少の頃から、お父さんが絶対君主ですごく怖かったので、なにかに怯えて生きてきたんですよ。今ではそうやって育ててもらったことに感謝してますけど、当時は早く父親から逃れたいという気持ちでいっぱいでした。
――虐待を受けたわけではない……?
関本:虐待というのは、その人によって物差しが違うから、一概に「これが虐待」って決められないと思うんです。野球をやらされてたんですが、お父さんはたぶん、僕の体を鍛えるために、今で言う虐待的なことをやっていたんだと思います。例えば足上げ腹筋って、足が下についたらダメじゃないですか。お父さんは「下ろすなよ、下ろしたら熱いぞ」って、ライターの火を構えてるんです。それを今やれば、虐待と捉えられると思うんですけど、当時はそういう鍛え方でした。
――実際に、足に火がついてしまったことは?
関本:ありますよ。でも結局ライターの火なんて、落ちたら風圧で消えますよね。火も弱いし、風でなびくから、親父のほうが「熱い」ってなって(笑)。それが面白くて、でも笑ったら怒られるから、こらえていたら逆に腹筋が鍛えられるっていう。意味の分からない鍛え方をしてましたね。
関本:他にも、ティーバッティングとか、走らされたりとか。毎日毎日、素振りを200回も300回もやらされたり、朝起きてランニングを3~4kmもやらされたら、さすがに嫌になりますよ。体力的にしんどいというより、精神的にしんどかったです。「今日もやるんだ……」というのが毎日なので。
――お父さんに対して、恨みはない?
関本:まったくないです。感謝しかない。今は仲が良いですし、ほんとに感謝しかないです。
――どんな部分で感謝していますか。
関本:お父さんが厳しくしてくれたから、つらいことがあっても耐えられるというか。少し痛いところがあったりしても、我慢できるようになりました。あとは腹が立たなくなりましたね。今やってることは将来に繋がることなんだと分かったときに、腹が立たなくなりました。文句を言ってやらないより、「はい、分かりました」って言ってやったほうが、自分のためになる。そう思えるようになったのは、お父さんのお陰だと思います。
――リングの上であんなに強いのに、劣等感があるというのは意外です。
関本:あれは仮の姿です。サイクアウトした自分ですよね。自分が自分でない感覚。人によく、「リングに立つと普段と全然違うよね」って言われるんですよ。僕は一緒だと思ってるんですけど、やっぱりサイクアウトするんでしょうね。やらなくちゃいけないっていう衝動には駆られます。
――どうすれば劣等感を克服できると思いますか。
関本:僕は克服してないですから(笑)。まあ、そうですね、筋トレをやればいいんですよ。筋トレをやれば、劣等感は薄れると思います。だって、筋肉がパンプして、鏡の自分を見てうっとりしてるんですよ。ナルシストでしょ。人間なんてみんなナルシストですけど。最終的になにが一番大事かって言ったら、自分が一番大事なんですよね。みんな自分の命を守るために生きてると思います。
――筋トレをすることで、ナルシストな自分と向き合える?
関本:そうですね。鏡に映る自分と向き合える。でもその鏡を見て、満足しちゃダメなんですよね。優越感には浸りますけど、満足はしない。満足したら、そこで終わっちゃうので。