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胸いっぱいで目をうるうるさせていたビガロ――フミ斎藤のプロレス読本#071【バンバン・ビガロ編エピソード6】

「バンバン・ゴース・オンBam Bam goes onだぜ」とビガロは鼻声でつぶやいた。  おい、オレはフットボール・プレーヤーとプロレスをやって負けちまったんだぜ。おい、なにかほかにもっと聞くことはないのか。おい、“レッスルマニア”のメインイベントだったんだぞ。おい、おい、おい――。  意地の悪そうなマスメディアのジャーナリスト、カメラマンたちが集合した共同記者会見の席で、ビガロの目はいちどにいろいろなことを訴えていた。でも、他人がどう思ったかなんて、ほんとうはそんなに大切なことではなかった。  “LT”はプロレス心のあるアスリートだった。たった1試合だけのプロレス体験だったけれど、しっかりとリングに上がる準備はしてきたし、それなりにプロレスのなんたるかを勉強してきたようだった。  お得意のフットボール・スタイルのタックルでがんがんぶつかってきた。フットボールでは反則のエルボー・スマッシュをフィニッシュ技として用意してきた。なによりも、“LT”はしっかりと闘おうとしていた。  ビガロは目をうるうるさせていた。ニックネームの“ザ・ビースト・フロム・ジ・イースト”は、発音したときのリズムが楽しいダジャレのようなライミングrhyming(韻を踏む)の音色。  ビガロ自身はホームタウンのニュージャージー州アズベリーパークに強い郷土愛を持っていて、“イースト(東海岸)から来たビースト(獣)”は少年時代からニューヨーク・ニューヨークを強く意識していた。  プロレスをやるんだったら、やっぱりマディソン・スクウェア・ガーデンで試合をやれるようにならなくっちゃ。世界チャンピオンになるのもいいけれど、“レッスルマニア”でメインイベントをとるほうがもっとグレードが高い。  ビガロの頭のなかでは、メジャーなものとそうでないものとの区別がはっきりつくようになっている。アメリカのプロレスラーにとって“レッスルマニア”のヘッドライナーより上のステータスは存在しない。  なりたい、なりたいと願っていたものになれたのだから、ちょっとくらい涙ぐんだっていい。汗っかきのビガロは、しきりにタオルで顔をふきながら「グッド・ピープル、グッド・ピープル」とくり返した。
斎藤文彦

斎藤文彦

 たぶん、いままでいろいろなところで出逢ったエブリバディーが、みんないい人たちに思えてきたのだろう。(つづく) ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
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