TOKYOガイジン、ビガロの“ディス・イズ・マイ・タウン”――フミ斎藤のプロレス読本#069【バンバン・ビガロ編エピソード4】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
バンバン・ビガロは、ホテルの部屋に入ると、まず窓ぎわのコーヒーテーブルの上にCDプレーヤーとミニ・スピーカーをセッティングした。これは一種の儀式のようなものだ。
スポーツバッグのなかには、持ち歩き用のCDプレーヤーと卓上型のミニ・スピーカー2個とCDが50枚くらい入ったファイルケースが放り込んである。
もちろん、バッグのなかにはタオルとか洗面用具とか常備薬の袋、手帳なんかも入っているけれど、いちばん大切なのはやっぱり音楽である。
大きなスーツケースのほうはワイフのデイナさんが荷づくりをしてくれたから、どこになにが入っているかなんてビガロにもさっぱりわからない。
洗たくしたてのリングコスチュームやらツアー中のふだん着やら下着類やらがきちんとたたまれてコンパクトにパッキングされてはいるけれど、どうしても気に入らなくてめったに着ないポロシャツなんかがまぎれ込んでいたりする。
ツアーの日数分の着替えを持ち歩いていても、けっきょく、身につけるのは肌になじんだいつものスウェット2、3枚だ。でも、音楽はそうはいかない。同じアルバムばかり聴いていると気が滅入ってくる。なんの音もないホテルの部屋なんかよけい耐えられない。
「まるで、きのうまでここにいたみたいだ」
窓の外をながめながら、ビガロはため息をついた。トーキョーの空気を吸うのは1年半ぶりだ。ついこのあいだまで1年に5回も6回もアメリカと日本を往復していたのに、WWEと契約してからは太平洋Pacific Oceanがずいぶん遠くなった。
アジア・ツアーの日程に日本公演がなかったら、あと何年かはトーキョーに戻ってくることもなかったかもしれない。
ビガロはこの街でたくさんの友だちと出逢い、いろいろなできごとを目撃してきた。昭和天皇が崩御された日は、新宿のホテルの40階の部屋で静かに音楽を聴きながら喪に服す新都心を見下ろし、長い午後をなんとなく過ごした。
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