胸いっぱいで目をうるうるさせていたビガロ――フミ斎藤のプロレス読本#071【バンバン・ビガロ編エピソード6】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
汗っかきのバンバン・ビガロは、白いスポーツタオルを首にひっかけてバックステージをのそのそ歩いていた。
元NFLニーヨーク・ジャイアンツのスタープレーヤー、“LT”ローレンス・テイラーとのレスリング・マッチを闘い終えたばかりのビガロは、なんだか胸がいっぱいで仕方がないという顔をしていた。
この3カ月くらいのあいだにビガロはとんでもないポピュラリティーを手に入れた。アメリカじゅうが“ザ・ビースト・フロム・ジ・イースト”ベームベム・ビグローの名をおぼえてしまった。
“LT”はいわゆるオール・アメリカンのスポーツ・セレブリティーである。テレビでフットボールを観ないアメリカ人はあまりいないけれど、フットボールに興味がない人でも“LT”は知っている。スーパーボウルのMVPになったことがあるし、黒人社会のヒーローのひとりでもある。
“LT”が“レッスルマニア”でプロレスの試合をすることが正式に発表されると、ネットワーク・チャンネルのプライムタイムのニュース番組がそれをニュースとして報道した。あのときもそうだった。
“元大相撲横綱・双羽黒(北尾光司)がプロレス転向”
“デビュー戦は東京ドーム”
“対戦相手は強豪バンバン・ビガロ”
北尾と闘ったビガロは、すっかり有名人になった。試合終了後――ビガロに対してではなく――北尾に対して浴びせられた大ブーイングのなか、3塁側ダッグアウト前でくるりくるりと身軽に側転をしてみせた太ったガイジン・レスラーは、東京ドームの大観衆だけでなく、お茶の間のテレビ視聴者のハートをがっちりとつかんだ。頭のてっぺんにタトゥーを彫った怪獣のようなプロレスラーを日本じゅうがおもしろがった。
“LT”と対戦することが決まった瞬間、ビガロのポーズ写真がアメリカのありとあらゆるテレビ番組、新聞、雑誌に出現しはじめた。
“元NYジャイアンツのローレンス・テイラーがプロレス転向?”
“デビュー戦はレッスルマニア11”
“対戦相手は強豪バンバン・ビガロ”
デジャヴdejavu=既視感とはまさにこのことだった。WWEは、というよりもビンス・マクマホンは、“LT”とプロレスの試合ができるのはビガロしかいないとはじめからにらんでいた。ようするに、そういう器用な仕事ができるのはビガロをおいてほかにいないのだった。
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