ビガロのオクタゴン物語Tapped Out With Dignity――フミ斎藤のプロレス読本#073【WWEバンバン・ビガロ編エピソード8】
ケンカはいきなりはじまるものなのだろう。先に飛び込んでいったのはキモのほうだった。ビガロはキモのアマチュア・レスリング式のタックルをすばやく左にさばいたが、キモはキモですぐに体を入れ替えてビガロの上になった。
ここまではまぎれもなくレスリングだった。あっというまにキモがマウント・ポジションを取った。あとは馬乗りパンチの1ダース攻撃だった。
一発めの左のパンチがビガロの右の目の上をとらえた。“ビチッ”というイヤな音がした。いったい何発くらい顔を殴られたのだろう。このポジションのままだと、黙って殴られつづけるか、ギブアップの意思表示をして試合をストップするかのふたつにひとつしかない。
下になったビガロはそれでも太い両腕を前方にかざしてできる限りのディフェンスを試み、キモはキモで沈着冷静にビガロの顔面にパンチを振り下ろしつづけた。
ビガロがなんとか体をよこにずらすと、こんどは背後からキモの左の上腕が首のあたりにからみついてきた。チョークスリーパーがきっちりと決まったら、もうそこから先はない。
潔くタップアウトして決闘をジ・エンドにすることである。ゆっくりと起き上がったビガロの顔があまりにも無残な状態だったため、アリーナ席の後方からオーッというどよめきが起きた。オクタゴンのなかのできごとは観客のハートまではなかなか届かない。
キモはビガロのことをよく研究していた。ウエストの太いビガロの長所が正面からの突進力で、弱点がヒザから下のバランスの悪さにあることをちゃんと知っていた。こういう闘いはモメンタム(勢い、流れ、運動量)がすべてなのだという。
うさん臭さの塊みたいなキャラクターだったキモは、いつのまにか理論的なプロ格闘家に変身していた。キモはキモで、ビガロはやっぱりビガロ。バーリ・トゥードはバーリ・トゥードで、プロレスはプロレスだった。
ビガロとキモは、再び視線を合わせることなくオクタゴンを下りた。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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