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防災の日に考える憲法改正――立憲主義を守るためにこそ緊急事態条項が不可欠

「緊急事態」時の人権の制限は認められる

 被災地においては、必要物資が入手困難となり多くの悲劇が発生しました。たとえば、ガソリンが手に入らず、救急車などが、要請があったにもかかわらず出動できない事態が生じました。当時の菅首相は、緊急事態を宣言すれば、被災地の人々の財産権などが制限されることから、宣言を見送ったのです。  菅首相は、緊急事態宣言が、人々の私権を制限することにより、より重大な価値、生命などを守るものであることを理解していなかったようです。  市民の自由や権利を守るための国際条約に「国際人権規約(B規約)」があります。この規約は第4条で緊急事態において、「必要とする限度において」人々の私権を制限することを認めているのです。 第4条(一般的福祉による制限)  国民の生存を脅かす公の緊急事態の場合においてその緊急事態の存在が公式に宣言されているときは、この規約の締約国は、事態の緊急性が真に必要とする限度において、この規約に基づく義務に違反する措置をとることができる。

立憲主義を守るためにこそ緊急事態条項が必要

 首都圏や東海地方において大災害が予想される現在、憲法を改正して緊急事態の条項を導入することが当面の課題となっています。  憲法に緊急事態の規定をおくことは世界の常識になっています。立憲主義憲法は、平常時の憲法規範とは別に、緊急時の憲法規範をおくことを必要としているからです。  立憲主義は、政府が憲法の下で行動することを要求します。ところで、平常時の規範だけでは、この立憲主義が作用しなくなるおそれが生じます。たとえば、戦争や地震などの大災害があったとき、国会が作用しえなくなる場合があります。この時には一定期間、国会なしに国政が運営されることになります。  首都直下型地震が起こり、首都圏がいわば「脳梗塞」の状態になり半身不随になってしまった場合には、内閣が国会に代わって、「法律の力をもった政令」を制定し、これによって事態を乗り切る必要があります。そのためには、これを正当化するための憲法規定が必要になるのです。それが「緊急事態」の規定です。  もし緊急事態の規定がなければ、政府は国民の生命と財産を守るためには「法」から離れて行動せざるをえなくなります。このような事態はできるだけ避けなければなりません。  世界中の国々がほぼ例外なくこのような規定を備えています。この点について、比較憲法学の専門家である西修教授(駒澤大学)は、平成2年から23年夏までに新憲法を制定した99カ国の憲法すべてに緊急事態条項があったと述べています。  一例を挙げることにしましょう。スイス憲法には、「連邦参事会(内閣に相当する・引用者)は、公の秩序又は国内的安全若しくは対外的安全に対する現在又は急迫の重大なかく乱に対処するため、(中略)命令を制定し、及び決定を下すことができる。このような命令には、期限を付さなければならない」(第185条)といった規定があります。このように、憲法に緊急事態の規定をおくことは世界の常識です。
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緊急事態条項論議にナチスを持ち出す憲法学者の非常識
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世界一非常識な日本国憲法

こんな非常識な憲法は日本だけ!「外国人参政権合憲説」を撤回した著者だから書けた、憲法の欺瞞を粉砕する一冊!

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