更新日:2017年09月15日 14:47
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防災の日に考える憲法改正――立憲主義を守るためにこそ緊急事態条項が不可欠

緊急事態条項論議にナチスを持ち出す憲法学者の非常識

 憲法に緊急事態の規定をおくことは、世界の常識なのですが、日本においては例のごとく、学説の多数がこれに異を唱えています。学説は次のように二分されます。 (反対説)憲法改正による緊急事態条項の導入は許されない (賛成説)憲法改正によって緊急事態規定を導入する必要がある。  この2説をここでは反対説、賛成説と呼ぶことにしましょう。かなりあいまいな表現ですが、反対説の主張があいまいですので、このように呼ぶほかありません。  反対説の論者は根拠を2つあげます。第一に、緊急事態条項は立憲主義原則に違反する、と主張します。その代表的な論者は、憲法学者の芦部信喜教授(東京大学)です。  芦部氏は、この国家緊急権は、立憲的な憲法秩序を一時的にせよ停止し、執行権への権力の集中と強化を図って危機を乗り切ろうとするものであるから、立憲主義を破壊する大きな危険を持っている、と主張します(『憲法』岩波書店)。  この所論には、賛成できません。世界中の国々が緊急事態条項を憲法に定めているのは、非常時においても、政府が憲法の枠内で行動すること、すなわち「立憲主義を守ること」を要請しているからです。芦部氏は平時の憲法規範のみが「憲法」だと勝手に決めつけていますが、非常時の憲法も「憲法」なのです。  この問題についてドイツの憲法学者であり、憲法裁判所判事も務めた、コンラート・ヘッセは、その著書において「憲法は、平常時だけではなく、緊急事態及び危機的状況においても真価を発揮するものである」と述べて、緊急事態条項が不可欠なものであることを明言しています。  緊急事態条項に対する反対説は、もう一つの根拠を主張しています。それは緊急事態条項が濫用されるおそれがあるということです。そしてしばしば、ナチスはワイマール憲法の緊急事態条項を利用して、ワイマール憲法それ自体を破壊し、ナチス独裁体制を樹立したと主張します。そして日本にもそのおそれがある、と主張するのです。  これはまったくの的はずれです。もし緊急事態条項を導入することが、その濫用を招き、独裁体制の原因になるというのならば、世界中の国々が独裁体制になっているはずです。なぜなら世界中の国々が緊急事態条項をもっているからです。  それとも反対論者は、日本人は世界一未熟な国民であるから、日本人は独裁体制の形成を防ぐことができない、とみているのでしょうか。もしそうならば、日本国民に対するこれ以上の侮辱はありません。  緊急事態条項には、例外なく、失効規定が付けられています。たとえばフランス憲法においては、政府は「法律の効果を有する暫定措置」を講じることができるが、その暫定措置は60日以内に両議院で承認されなければ遡って失効すると定められています。
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学説上の対立に決着をつけねばならない
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世界一非常識な日本国憲法

こんな非常識な憲法は日本だけ!「外国人参政権合憲説」を撤回した著者だから書けた、憲法の欺瞞を粉砕する一冊!

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