サブゥーのターバンは病床のシーク様へのグリーティング――フミ斎藤のプロレス読本#085【サブゥー編エピソード5】
伯父上を病院に残して、サブゥーはまたしても機上の人となった。手術に立ち会えないかわりにスーツケースのなかにはシーク様が愛用していた古いターバンを放り込んでおいた。
シーク様といっしょにツアーに出ることはもうないかもしれないけれど、やっぱりザ・シークとサブゥーのリンクはなんらかの形で残しておかなければならない。
シーク様は甥っ子に伝家の宝刀キャメルクラッチを「フィニッシュ・ホールドに使ってくれんかねえ」とたずねた。
サブゥーは伯父上のリクエストに応え、試合のまんなかあたりで使うつなぎ技としてシーク様の財産をアダプトすることにした。シーク様はもうああしろ、こうしろと指図をしなくなった。
サブゥーの意識のなかでは、ザ・シークは伯父――サブゥーの母イヴァさんのすぐ上の兄――エド・ファーハットのリングネームではなくて、生きていくための根本的なアテテュード(姿勢、心がまえ)である。
シーク様だったらこういうときはこう考える、こういうシチュエーションではこう行動する、という情報が体じゅうの生傷にインプットされている。ザ・シークの哲学はザ・シーク一代限りのものではない。
あのターバンと左腕に巻いた“SHEIK”のテーピングは、サブゥーから病床の伯父上へのグリーティング。ごくパーソナルな儀式だから、観客がそれに気づいてくれなかったとしてもべつにどうってことはない。
シーク様は、いまごろ手術を終えて目をさましてケロッとしているだろう。サブゥーがデトロイトへ帰れば、“アラビアの怪人”はまたいつものようにいばりはじめるに決まってる――。(つづく)
※文中敬称略
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文/斎藤文彦 イラスト/おはつ1
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