サブゥーとダミアンのブロークン・イングリシュな語らい――フミ斎藤のプロレス読本#083【サブゥー編エピソード3】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サブゥーは、左手を胸のまえに抱え込みながら「ウーン、ウーン」とうなっていた。ちょっとやそっとの痛みには慣れっこになっているとはいっても、ちゃんとお医者さんに診てもらわなければどうにもならないような外傷だってある。
左手の甲の中指のこぶしのあたりの皮膚が2センチ四方くらいの大きさに破けて、なかから白い骨がはっきりと見えていた。なんでそんなことになったのかというと、ようするに過剰パフォーマンスをやらかしてしまったのである。
どこの試合会場でも観客が「サブゥーッ、また机、壊してくれーい」なんて声をかけてくるから、いつのころからかサブゥーはリングのまんなかに置いたテーブルをまっぷたつに破壊する“自殺ムーンサルト”の妙技を毎晩のように披露するようになっていた。
ひとつの芸が定着すると、観る側はやっぱりその次のなにかを期待する。サブゥーはサブゥーでもっとすごいことはできないものか、といつも頭をひねっているから、とりあえずはぶっ壊したテーブルの破片をさらに正拳で打ち抜くことを思いついた。シンプルだけど説得力のあるシメにはなる。
でも、この作戦は失敗だった。やってみたら、こぶしのほうが壊れた。初めのうちは擦りむいたところをスーパーグルー(瞬間接着剤)で止めたりしていたが、そのうちほんとうに指の関節がおかしくなった。
そこで、ためしに利き腕ではない左手で机をぶん殴ってみたら本格的にベロンといってしまった。皮がむけるというよりは肉をほじくったような感じになった。ジャパニーズ・ドクターの診断はサブゥーを震えあがらせた。
左手中指の腱切断。すぐに手術をしてから1週間の検査入院。手、前腕部、ヒジをすっぽりとくるむギブスで4週間固定。さらに長期のリハビリ・プログラム。ドクターは「そうしないと指が動かなくなりますよ、一生の問題ですよ」と警告した。
「たかが指1本でしょう?」
「たかが指1本、ではありません」
ドクターとサブゥーのやりとりをダミアンがすぐそばで見守っていた。お医者さんは日本語と英語を混ぜながら話し、サブゥーは相手がわかろうがわかるまいが早口の英語でしゃべりつづけ、スペイン語とほんのちょっとの英語しかわからないダミアンは必死になって会話の断片を理解しようとした。
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