困惑のサブゥー「シーク様のこと、なんて書いたんだ?」――フミ斎藤のプロレス読本#082【サブゥー編エピソード2】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
“サブゥーとシーク様の“親子の断絶”みたいなやりきれなさ”なんてタイトルをそのニュアンスがきっちり伝わる英語に訳してみろといわれたら、けっこうむずかしい。
ページのどまんなかに写真が1点だけレイアウトされていて――週刊プロレスのぼくの連載コラム“ボーイズはボーイズ”――まわりのスペースは日本語だけで黒ぐろと埋め尽くされている。
サブゥーは、そこにいったいなにが書かれているのか知りたくてしようがなかった。同じレスリング・マガジンの記事でも試合モノのカラーグラビアだったら写真をながめているだけで楽しめるけれど、自分の顔写真のまわりに日本語がびっしりでは不思議で不思議で仕方がないし、ちょっぴり不安にもなる。
そこでサブゥーは、知り合いの日本人の女性に翻訳を頼んだ。翻訳といってもそんなにフォーマルなものではなく、いっしょに記事を読みながらその場その場でちょっとずつ英語に訳してもらうという感じだったらしい。
“アラビアの怪人”ザ・シークはだれにでも頭ごなしにガミガミとものをいって他人のはなしなんてまず聞く耳を持たないイヤなじじいで、サブゥーのことなんか“へ”みたいに思っていて、サブゥーはサブゥーでもう一人前になった気でいるからそんなじじいのことがうるさくなって、そのうちふたりの関係がギクシャクしてきて、しまいには大ゲンカになって大声で怒鳴り合った……。
サブゥーは理解したところのストーリーはだいたいこんなぐあいだった。
ジグソーパズルのかけらを拾い集めるような作業だから、つなぎ合わせ方によってはたしかにこうなるかもしれない。サブゥーは腹を立てた。とんでもねえこと書きやがって、というわけである。
こういうアクシデントはたまに起きる。ホーク・ウォリアーの女運の悪さを書きつづったときも、もちろんそれは誤解なのだけれど、ホークは第三者を介して「ぶん殴る」と通告してきた。
けっきょく、サブゥーとぼくは晴海ドームでの試合のあと、いっしょに食事をすることになった。サブゥーはプロレス少年がそのままオトナになったようなタイプで、すぐに熱くなるところもあるけれど、ものすごくウェットなところもある。
あのコラムは、サブゥーが話してくれたことが“材料”になっていた。伯父上のシーク様と甥のサブゥーは、ほんとうにごくふつうの会話が成立しない間柄だった。主君と家来。師匠と弟子。絶対服従、口答えなしの関係はリングのなかだけではなかった。でも、それがようやく変わりつつある。
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