人恋しい夜はスキナードの“フリーバード”を聴きながら――フミ斎藤のプロレス読本#093【Tokyoガイジン編エピソード03】
こんどのトーキョー生活は7週間。まず『スクランブルサバイバー』の巡業が15日間つづいて、それから5日間の韓国遠征のスケジュールが入った。1週間のオフをとったあとは12日間の『イヤーエンドセンセーション』がはじまる。FMWの年間スケジュールが終了するまで隠れ家での生活がつづく。
マイクは1983年にプロレスラーとしてのスタートを切った。ベトナム帰りのコーポラル(伍長)――リアルライフでは10代で陸軍に入隊し第82空挺師団に在籍した――というギミックでいきなりWWEのリングでデビューし、“レッスルマニア”にも出場した。
ハルク・ホーガン、アンドレ・ザ・ジャイアント、ロディ・パイパーといったスーパースターたちといっしょに世界じゅうをツアーした経験がレザーフェイスのプロレスラーとしての自我を形づくった。マイクはどこでだって暮らせるし、どんな怪物にだって変身できる。
レナード・スキナードの“フリーバードFree Bird”を聴いていると、このままずっと旅をつづけるのも悪くないような気がしてくる。フロリダのフォートローダーデールに帰れば、13歳と10歳になるふたりの息子たちの顔をみることができる。
前妻とのあいだにできた子どもたちはいつもは母親といっしょに住んでいるけれど、マイクが電話をかければすぐにでも会える。たまには親父を決め込むのもいい。イタズラ坊主たちは“レザーフェイス”のことを誇りに思っていてくれる。
日本のリングにもうひとりのレザーフェイスがいることはそれほど気にならなくなった。どちらがオリジナルでどちらがコピーなのかは、電気ノコギリを振りまわしている本人がいちばんよくわかっているだろう。それに、マイクの右腕からあのタトゥーが消えてなくなることはない。
“フリーバード”の長いギターソロを聴きながら、マイクはベッドによこになって天井をながめる。
汗びっしょりになった“レザーフェイス”のお面は、内側の部分にタオルをつめて部屋のなかで乾かされる。空っぽのマスクには表情がない。(つづく)
※文中敬称略
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦 イラスト/おはつ
1
2
⇒連載第1話はコチラ
※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
この連載の前回記事
この記者は、他にもこんな記事を書いています
ハッシュタグ