人恋しい夜はスキナードの“フリーバード”を聴きながら――フミ斎藤のプロレス読本#093【Tokyoガイジン編エピソード03】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
スーパー・レザーの右腕にはカタカナで“レザーフェイス”とつづられたタトゥーが彫られている。レザーフェイスは、猟奇連続殺人事件をテーマにしたホラー映画『悪魔のいけにえ』(トビー・フーパー監督)の主人公だ。
チェーン・ソー=電気ノコギリは殺害に使われる凶器で、グロテスクなマスクは被害者の頭の皮を剥いでつくった革製品ということになっている。プロレスラーのレザーフェイスは、もちろん“怪奇派”の部類に入る。
マイク・カーシュナーは、スーパー・レザーというリングネームをあまり気に入っていていない。
もともとはオリジナルのレザーフェイスとしてW★INGという弱小インディペンデント団体のリングに上がっていたが、傷害事件の容疑で東京・麻布署の留置場に入れられているあいだに“シャバ”ではまったく同じキャラクターのレスラーがもうひとり出現していた。W★INGのスタッフは、だれがマスクをかぶっても同じと考えた。
レザーは西馬込のビジネス・ホテル“A”を隠れ家にしている。それほど大きくないシングルルームは、ベッドとちいさなテーブルが置かれているだけのシンプルな空間。
トイレとシャワーがいっしょになった狭いユニット・バスはどうも使い勝手が悪い。スーツケースとスポーツバッグの中身はなんとなくフロアに散らかし放題にしてある。
汗びっしょりになった“レザーフェイス”を脱ぐと、レザーはマイクに戻る。百円玉を入れないと観られないテレビの上には、ピーナッツバターの瓶と食パンの包みがのっかっている。
床にはワイルドターキーや飲みかけの赤ワインのボトルなんかが立ててあって、外から冷たい空気が入ってくる、ほんのちょっとしか開かない窓のすぐそばにはダイエット・コーラのペットボトルが置いてある。
でも、426号室でいちばん大切なものは、秋葉原で買ってきたポータブルのCDプレーヤーである。マイクは、音楽がないところにいると窒息しそうになる。スピーカーから流れてくるサザン・ロックにはピーナッツバターと同じくらい栄養がある。
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