“バンプをとらないプロレスラー”ポール・Eの不眠パワー――フミ斎藤のプロレス読本#109【ECW編エピソード01】
10年近い悪党マネジャー稼業でポール・Eが味わったのは屈辱だけだった。プロモーターにしてみればレスラーは大切な商品だが、マネジャーなんて“屁”みたいなものなのだ。
いままでいちばん長くいた団体はWCWだったが、レスリング・ビジネスのなんたるかをまったくわかっていない、また勉強しようともしない背広組のエグゼクティブがプロレスの“中身”をいじくっているところを指をくわえてみているのがいやでいやでたまらなかった。
ポール・Eがほんとうにやってみたかったのはクリエイティブ・ワークだった。だれにも邪魔されずにプロレスを“つくる”には、やっぱり自分で団体をおっぱじめるしかなかった。
そこらじゅうをかけまわってスポンサーを探しまくり、やる気はあるけれど仕事がなくてふらふらしているインディーズ系のボーイズに声をかけ、定期興行が打てるような小屋を見つけ、ECファッキンWはささやかなスタートを切った。ポール・Eがスリープレスになったのはそのころからだ。
ECWのロゴの下には“ハードコア・レスリング”なるコピーが記されている。WWEやWCWのブランド感、メジャー感に対抗しようとは思わない。
そこに足を運べばプロレスらしいプロレスがある、という状況をこしらえたい。ライヴの主人公には、日本のFMWのビデオで発見したサブゥーを迎え入れた。
類は友を呼ぶ、ではないけれど地道にハードコア・レスリングに取り組んでいるうちにだんだんと重要な登場人物が集まってきた。メジャー2団体の市場独占に嫌気がさしていたテリー・ファンクがポール・Eに全面協力を約束してくれた。
アメリカと日本を行ったり来たりしながらインディー・シーンでムーブメントを起こしていたカクタス・ジャック(ミック・フォーリー)もECWに合流した。
サウス・フィラデルフィアの場末のビンゴ・ホールがECWの聖地となった。
携帯電話はギミックではなくて、いつでもどこでもボーイズと連絡を取るための生活必需品。“眠らないニューヨーカー”ポール・Eは、脳内パンプをとりつづけ、命をちぢめながら革命を起こしているのである。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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