更新日:2022年10月24日 00:58
スポーツ

レイヴェンはとびきり不良でとびきりハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#112【ECW編エピソード04】

レイヴェンはとびきり不良でとびきりハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#112【ECW編エピソード04】

サウス・フィラデルフィアのいちばん治安の悪いエリアに住んでいる(ということになってる)レイヴェン。そこらじゅうにタトゥー・パーラーがあって、体じゅうにピアスの穴を開けたヤツらがふらふら歩いていて、ドラッグ依存症、アルコール依存症、ギャング、ドロボー、社会のスタンダードからこぼれ落ちた人間が集まってくる場所なのだという(Photo Credit: Linda Roufa)

 レイヴェンはどこにも属さない、属せないアウト・キャスト。みんながベッドから起きだすころ、やっと家に帰ってくる不良少年。頭のなかはいつもファック・アップしっぱなし。  とにかく退屈だった。レイヴェンのなかでは“退屈”と“恐怖”が同義語で、退屈な人生を送るくらいだったら死んじゃったほうがましだ、といつも考えていた。だから、崖っぷちを歩いてみたかった。  心から尊敬するニール・ヤングNeil Young――1970年代を代表するロックシンガー――は、フェイド・アウェイFade Awayするよりはバーン・アウトBurn Outしろと教えてくれた。  ニール・ヤングは、パンクが誕生するまえからパンク・ロックを、イーグルスが出現するまえからカントリー・ロックを、グランジが生まれるずっとまえからグランジ・ロックをやっていたアーティストである。  “ラスト・ネバー・ダイRust Never Die”というアルバムの“ヘイ・ヘイ・マイ・マイHey,Hey,My,My”という曲のなかで、ニール・ヤングは“消え去る”よりは“燃え尽きろ”と歌っている。  社会が期待する役割を果たせないキッズ。権利をハク奪された若者。虚無的で独りぼっちで、社会に対しても人間に対しても無関心。暴力と欺瞞(ぎまん)と精神腐敗。人生はデッド・エンド。  レイヴェンは決して笑わない。ホープ=希望と呼べるものがなにひとつないのだから、笑えるはずがない。  オフスプリングの“カム・アンド・プレー”がかかるとECWアリーナのライヴがはじまる。たったいまこの一瞬でなにもかもが終わってしまうかのうような向こうみずなハードコア・レスリング。  レイヴェン――その刹那(せつな)的な発光――は、レイヴェンを共有できるオーディエンスのためだけに闘うのである。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦
1
2

⇒連載第1話はコチラ

※斎藤文彦さんへの質問メールは、こちら(https://nikkan-spa.jp/inquiry)に! 件名に「フミ斎藤のプロレス読本」と書いたうえで、お送りください。
おすすめ記事