レイヴェンはとびきり不良でとびきりハードロック――フミ斎藤のプロレス読本#112【ECW編エピソード04】
レイヴェンはどこにも属さない、属せないアウト・キャスト。みんながベッドから起きだすころ、やっと家に帰ってくる不良少年。頭のなかはいつもファック・アップしっぱなし。
とにかく退屈だった。レイヴェンのなかでは“退屈”と“恐怖”が同義語で、退屈な人生を送るくらいだったら死んじゃったほうがましだ、といつも考えていた。だから、崖っぷちを歩いてみたかった。
心から尊敬するニール・ヤングNeil Young――1970年代を代表するロックシンガー――は、フェイド・アウェイFade Awayするよりはバーン・アウトBurn Outしろと教えてくれた。
ニール・ヤングは、パンクが誕生するまえからパンク・ロックを、イーグルスが出現するまえからカントリー・ロックを、グランジが生まれるずっとまえからグランジ・ロックをやっていたアーティストである。
“ラスト・ネバー・ダイRust Never Die”というアルバムの“ヘイ・ヘイ・マイ・マイHey,Hey,My,My”という曲のなかで、ニール・ヤングは“消え去る”よりは“燃え尽きろ”と歌っている。
社会が期待する役割を果たせないキッズ。権利をハク奪された若者。虚無的で独りぼっちで、社会に対しても人間に対しても無関心。暴力と欺瞞(ぎまん)と精神腐敗。人生はデッド・エンド。
レイヴェンは決して笑わない。ホープ=希望と呼べるものがなにひとつないのだから、笑えるはずがない。
オフスプリングの“カム・アンド・プレー”がかかるとECWアリーナのライヴがはじまる。たったいまこの一瞬でなにもかもが終わってしまうかのうような向こうみずなハードコア・レスリング。
レイヴェン――その刹那(せつな)的な発光――は、レイヴェンを共有できるオーディエンスのためだけに闘うのである。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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