更新日:2022年10月29日 01:13
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なぜ“時代遅れの服”が生まれるのか? 5日間で3237万円を集めたアパレル社長が語る「ここがヘンだよ、日本のアパレル業界」

アパレル業界のおかしな慣習2:不透明に決まるトレンド

アパレル業界においてファッションショーは流行を作り出す場の一つだ

「アパレル業界は、消費者に“これ、かっこいいでしょ!”と、上(メーカー側)から指示して消費を惹起する状況が長年続いてきました。その最たる例が、流行色。アパレル業界でよく言われる“今年の流行色”は3年前に決まります。それは、デザインから発注、製造、販売までにこれほどの時間を要するからです。  でも、そもそも流行色という概念が売り手の都合で生まれているものです。本来、消費者はそれぞれ自分の好きな色の服を着たいのではないでしょうか」  だが、アパレル業界の不振が続いた結果、ここ10年で“流行”はどんどん細分化され、トレンドのサイクルが早くなっていったと木村氏は語る。 「かつては2~3年ほどでトレンドが一回りしていたのが、今はたった1年で“昔のデザイン”になってしまうようになりました。消費者の購買サイクルを短くするためです。また、かつてより流行の細分化が進み、タイトなのか、ワイドなのか、などの大きなデザインだけでなく、シャツの襟にもデザインの微妙な差異をつくり、“トレンド”を生み出すようになったんです。結局、アパレル業界が吹聴する流行っていうのは“昨日と言ってたこと違うじゃん”ってこと。それって消費者との信頼関係を生むこととは真逆の行動じゃないですか。  さらに増えてきたのは、“◯◯専用”を謳う服。たとえば、アウトドアウェアウェアも、釣り用なのか、キャンプ用なのか、街中で着るカジュアル用なのかによって細分化して販売するようになりました。“◯◯専用”を謳えば、消費者はシチュエーション別に服を揃える必要が生まれるからです」  つまり、アパレル業界は長年消費者に服を増やさせるマーケティングをしてきたというのだ。結果、“製品の寿命は終わってないのに、情報(流行)の寿命が終わる”という現象が生まれてしまったと木村氏は語る。 「チェーンストア理論というアパレル業界のマーケティングでよく使われる用語があります。ZARAやH&Mはこの理論に基づいて製品を生産しています。一口で言えば、『消費者は捨てなくてもいいモノを持ち続ける限り、新しくモノを買わない。ならば、いずれ捨てなければならない(消耗する)モノを売ることで、新しいモノを買わせ続けよう』という考え方です。つまり、消耗しやすい服を売るメーカーのほうが売れるという考えです」  これにより、消費者は服をいつまでも買い続けなければならないのだ。

アパレル業界のおかしな慣習3:価格設定

シーズンの終わりにはアウトレットに50~80%オフの商品が並ぶ

「春、夏、冬とシーズンごとに服が30~50%オフになるセール。最終的には、80%オフになるケースも珍しくありませんが、これに疑問を感じたことはありませんか? なんでそんなに下げるの? と。元々買った服が2ヶ月後に半額になるケースなんてザラです。  長年業界に携わってわかったのですが、そもそもアパレル業界は商品の価格設定がおかしいんです。セールで値段を下げる前提で原価率を設定していますから。大抵の服の原価率は1~2割程度。セールに向けて最初の価格を設定するので、冬服を9月に買えばシーズンまるごと着れるとは言っても、最初の価格はかなり高い。これではいつまでも消費者からの信頼を獲得できないでしょう。そもそも、どうせ安くなるんでしょ、と思われる商品を出すのは誠実ではないのではないでしょうか」

“デザイン”の語源から考える“未来の服”とは

 こうした疑問を感じた結果、木村氏は上述したパーカーのほか、ハイキックできるくらい伸びるジーンズ「ハイキックジーンズ」や、「一生色が落ちない黒いパンツ」などを次々開発。  また、服の売り方にも工夫を加えた。 「まずはブランドのファン作りをしました。アパレルショップが、消費者にとって『服を買うだけの場所』というイメージを取り払うことから始めたんです。大阪のシェアハウスなどで試着イベントを実施したり、世田谷にものづくり学校を開校してブランドを知ってもらったり。そこでは服は売ってません(笑)」  また、“時代遅れ”を生み出すことを前提にした服のデザインに対しても独自の哲学を導入した。 「そもそも、Designは、辞書を引くと“問題解決”って意味があるんです。『形態は機能に従う』というデザイン業界の格言があります。デザインには、それに沿った機能が備わっているという意味です。しかし、長年アパレル業界はそうなっていませんでした。パーカーのフードはもともと雨風避けれるために作られたのにそうなっていない 。だから防水のパーカーをつくったわけです。洗っても色落ちしない、毛玉ができない、壊れたら直すサービスを提供する、など服にまつわる問題解決が実現するサービスを提供していきたいですね」  業績が低迷しているアパレル業界が抱える問題は、根深い。流通構造を大きく変える必要があるため、なかなか改革が進みにくい。今後、業界がまるごと泥舟に沈まないためにも、こうした聖域にもメスを入れる必要があるのかもしれない。 <取材・文/牧野俊>
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