更新日:2022年10月29日 01:25
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三菱商事、東芝、メガバンク…大手企業を辞めた20代若手社員はどこに消えたのか? 先端テクノロジーに惹かれる若者たち

総合商社出身のチームだからできたプロジェクト

 現在、SKRの従業員数は16人。そのうち、三菱商事や三井物産などの総合商社やメガバンク出身の社員が10人勤めているという。どれも平均年収800~1000万円の大企業だ。  その背景を、代表の安智憲氏はこう語る。 「彼らが総合商社やメガバンク出身という強みを最大限に活かしてもらっています。もともと大手企業出身のメンバーで起業したこともあり、3年前に会社を立ち上げたときから、大きな組織にいて自由に動けないことに不満を持つ若手社員を説得し続けてきました。ほかにも大手IT企業出身の社員も数名います」  代表の安氏は、先進的な製品を扱える点と意思決定のスピードの早さが彼らを惹きつけたのではないかと分析する。 「先進的な商品の一つとして、今後弊社が力を入れる商品のひとつにWatsonという人工知能ロボットが導入された子供向けおもちゃがあります。ロボットに年齢を尋ねられたときに、使用者の年齢に合わせた会話をしてくれるロボットです。たとえば、『月と地球はどれくらい離れている?』という質問に対し、3歳児には『僕が行けないくらい』と答え、9歳の少年ならば、具体的に『38,440キロメートル』と答える。各年齢ごとに知っている情報量やコミュニケーションの仕方の集合知を使って会話をするのです」  コミュニケーションがデータベース化されていくことで年齢に応じた会話ができるというわけだ。 「膨大な会話のビッグデータ自体が高い商品価値を持ちます。3歳児との会話の情報データはマーケティングの上でとても参考になるので、そのデータ自体を売れるわけです。現在アメリカでIPOを準備しているCogniToysは、まさに”リアルドラえもん”といってよい商品をつくっています。  昨今普及が進みだしたスマホの秘書機能アプリよりも圧倒的に優秀で、ドライブレコーダーを入れてナビと一体化すれば、一人で運転する時の話し相手にもなってくれる。将来的にはドラえもんとかピカチュウのような日本の有名アニメキャラクターを本当にペットのように会話する社会が実現します。こういうイノベーティブな事業は若い方には興味深く映るのではないでしょうか」  まだ見ぬ未来を示す仕事。だが、それはどのスタートアップでも言えることでは? また、家電ならば資本力のある大手家電メーカーでも同じプロジェクトを実行できそうだが? 「たしかにそうです。そのため、彼らのキャリアを活かせる会社がより選ばれるのでしょう。日本の大手家電メーカーは、往々にして行動が遅く、いまだに消費財系のIoTが少ない。特に総合商社出身者は、海外とのパイプラインが多く、現地工場とのやりとりもとてもスムーズです。部品の工場を見つけてくるのが強ければ、こうした先進的な家電の開発が早く進むので、相性がとてもいいです。  事実、日本の大手家電メーカーが発注している中国の製造委託工場は数多くありますが、そこを退職したメンバーが立ち上げたある会社は、日本基準のクオリティをもった製品を作れています。こうしたルートを見つけてこれるのは、大手企業出身者ならではです」

※写真はイメージです

 日本の家電業界は、使わなくいいスペックを導入し続けた結果、価格は下がらず、コモデティ化が進行。消費者離れが起きてしまった。

ドンキの4Kテレビはなぜ売れたのか

 高島氏によると、今年ヒット商品となったドンキホーテの4Kテレビは、「いらない機能を全部外したのであの価格で商品化できた」とブームを振り返る。 「結局、4Kでテレビが見れて、録画ができればいいという消費者のシンプルなニーズに沿った商品だったからヒットしたんです。今だに多くの人は家ではスマホをいじっていて、テレビでネットなんてやらないんです。ドンキのジェネリック家電はそこに目を向けた。機能が増えれば、半導体の価格が高騰し、原価が跳ね上がります。しかし、大手家電メーカーは冬モデル、夏モデルといったようにリニューアルを繰り返すことを前提にしているので、小さな差を常に生み出さなければいけない。結果、不必要な機能がどんどん追加されていったのです。差別化のための差別化ですよ」  そうした旧態依然とした家電業界の慣習と停滞が、若者をスタートアップに向かわせたと考えるのは、不自然ではない。 「いま、韓国の家電メーカーの開発チームは、日本の大手家電メーカー出身者だらけです。これでは仮に誓約書等で縛ったとしても技術の流出は止まらないでしょう。企業は人が創るのに、短期的なコストカットを行ったツケが回ってきて自己の首を絞めている。15~20年前のリストラ蔓延時は、必要に迫られてのことだったのでしょうが、現在は手段が良くなかったという反省に至っている。実はいま、サムスンの開発チームは東芝やSHARP出身の日本人だらけ。LG、美的は特に東芝の家電グループから移った人が多いんです」  有名企業の名前と年収を捨て、自由度の高いスタートアップに進む若手ビジネスパーソンたち。こうしたキャリアコースを歩む若者は、今後さらに増えていくのかもしれない。 <取材・文/牧野俊>
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