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日米は戦わされた? アメリカの保守派が唱え始めた「スターリン工作史観」――評論家・江崎道朗

スターリン工作史観の登場

 幸いなことに、ビアード博士のように、アメリカでは、歴史の真実を探求する動きが続いており、歴史は静かに書き換えられている。  2017年9月、私はハワイのアリゾナ記念館を訪問した。真珠湾攻撃を記念して作られたアリゾナ記念館ビジター・センターには、真珠湾攻撃に至る経緯を展示した展示室がある。その入り口に飾られていた一枚の解説板にはこう記されていた。 解説板《「迫りくる危機」 アジアで対立が起きつつある。旧世界の秩序が変わりつつある。アメリカ合衆国と日本という二つの新興大国が、世界を舞台に主導的役割を取ろうと台頭してくる。両国ともに国益を推進しようとする。両国ともに戦争を避けることを望んでいる。両国が一連の行動をとり、それが真珠湾でぶつかることになる。》(引用者の私訳)  真珠湾攻撃は日米両国がそれぞれの国益を追求した結果起こったものであるとして、日本を「侵略国」であると決めつけた「日本悪玉史観」は事実上、見直されているのだ。  その動きは今後益々進んでいくことになるだろう。というのも、アメリカの保守派の間では近年、「真珠湾攻撃背後にソ連のスターリンの工作があった」とする「スターリン工作説」が唱えられるようになってきているからだ。  例えば、保守派のオピニオン・リーダーであるM・スタントン・エヴァンズと、安全保障の専門家のハーバート・ロマースタインが共著で『Stalin’s Secret Agents: The Subversion of Roosevelt’s Government (スターリンの秘密工作員:ルーズヴェルト政権の破壊活動)』(Threshold Editions, 2012, 未邦訳)を刊行し、ソ連のスターリンが日米を開戦に追い込むために、日本、アメリカ、中国(蒋介石政権)の三方面で同時並行的に三つの大掛かりな工作を行ったと指摘している。 ①ソ連の工作員であるドイツ人ジャーナリスト、リヒャルト・ゾルゲが、朝日新聞記者だった尾崎秀実らを使って、日本が英米両国と戦争をするよう誘導した。 ②ソ連の工作員であるアメリカの財務次官補ハリー・デクスター・ホワイトが、ルーズヴェルト政権内部に働きかけて、日米の和平交渉を妨害した。 ③ソ連の工作員であるルーズヴェルト大統領補佐官ラフリン・カリーが、中国国民党政府の蒋介石の顧問であったオーウェン・ラティモアと連携して、日米の和平交渉を妨害した。  その詳細は拙著『日本は誰と戦ったのか──コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ』(KKベストセラーズ)で紹介しているが、こうしたスターリンによる複数の秘密工作の結果、「日米和平交渉は頓挫し、日米戦争に至った」として、こう結論づけている。 《ソ連による政治工作は、ソ連が我々の同盟国であり、反共防護措置が事実上存在しなかった第二次世界大戦中に最も顕著であった。これはぞっとするほどタイミングが良かった。親ソ派の陰謀がアメリカの参戦に決定的役割を果たしたのだから。この意味で注目すべきなのは、真珠湾攻撃に先立って共産主義者と親ソ派が行った複雑な作戦である。》(引用者の私訳)  こうした歴史見直しを進めるアメリカの保守派は、ドナルド・トランプ大統領の支持母体でもある。アメリカ内部で始まった歴史見直しの動向には大いに注目しておきたい。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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