更新日:2017年11月15日 14:40
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トランプ大統領が安倍首相を頼りにしている理由【評論家・江崎道朗】

江崎道朗のネットブリーフィング 第23回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!

安倍外交の凄さを理解していない日本

江崎道朗

江崎道朗(撮影/山川修一)

 11月5日、アメリカのトランプ大統領の初来日を前に、改めてトランプ大統領と安倍首相の親密さが話題になっている。  例えば、9月21日、国連総会に続いて実施された日米韓三か国の協議の席上でトランプ大統領は安倍首相の誕生日を祝福した。このトランプ大統領の行動はツイッターで全世界に広がり、大きな話題になった。なぜそれほど安倍首相はトランプ大統領から大事にされるのか。先月、訪米して米軍の関係者たちと話をして、その理由がわかってきた。  あるレストランで議論をしたときのことだ。米軍の元情報将校は「トランプ政権にとって最大のパートナーが安倍政権だ」と強調した。 「今日はこちらの奢りだからと言って、そんなリップサービスをしなくていいよ」と笑っていたら、その元情報将校は「日本人自身が安倍外交の凄さをわかっていないことが問題なんだ」として、こう解説したのだ。 「我々は現在、アジア太平洋方面では二つの大きな脅威に直面している。短期的には北朝鮮。長期的には中国だ」  そして北朝鮮と異なり、中国は圧倒的な経済力を持っていて、いくら脅威であっても中国と紛争することはできないというのが彼らの認識なのだ。中国はすでに数百発のミサイルを日本列島に向けて発射できるよう準備を済ませており、そのミサイルに核爆弾も搭載可能だ。  トランプ政権は当初、中国の軍事的経済的台頭を抑えるため、ロシアと組もうとしたが、ロシアとの関係改善は進まず、次善の策としてASEAN諸国やインドと組もうとした。  ところが、中国側に先を越されていた。  中国は2014年11月、一帯一路構想といって「シルクロード経済ベルト」と、「二十一世紀海上シルクロード」を構築すべく、アジア諸国に対して徹底的な経済支援を実施している。この「買収」工作のため、ASEAN諸国の多くはいまや「中国批判」を口にしないようになってきているのだ。  それでなくともASEAN諸国は、ヘッジファンドなどの投資家によって振り回されてきた過去があるため、アメリカに余りよいイメージを持っていない。インドも独立以来、非同盟といってアメリカともソ連とも同盟を結ばずに独自の道を歩んできたため、さほどアメリカとは関係がいいわけでもない。  しかも今年1月に発足したトランプ大統領は、国務省幹部と仲が悪い。このため国務省の主要人事でさえ未だに決まっておらず、アメリカ外交は余り機能していないのだ。  そもそもトランプ大統領自身が国際政治の分野で友達が少ない。かくして途方に暮れていたトランプ政権の対アジア戦略を支えているのが、安倍首相なのだ。

日本はアジア太平洋の安全保障の要

 安倍首相は第二次安倍政権が発足した2012年、「セキュリティ・ダイアモンド構想」を発表している。中国の脅威を念頭に、日米同盟を広げて東南アジアやオーストラリア、インドに至るまでの連携網を構築しようというものだ。  この構想に基づいて安倍首相はこの5年近く「地球儀を俯瞰する外交」と称して世界中を奔走してきた。特にASEAN諸国やインドとの外交を押し進め経済のみならず、安全保障面での関係強化を図っている。  この安倍首相の活躍のおかげで、トランプ政権とASEAN諸国、インドとの関係改善も進んでいるのだ。元情報将校はこう強調した。 「インド太平洋地域で果たすべきアメリカの役割が不明確になっているなかで、代って日本がこの地域でより大きな役割を果たすようになってきている。特にアメリカは昔からインドとの関係は複雑で微妙な面があるが、日本がインドとの関係を強化してくれているので実にありがたい」  米軍関係のあるシンクタンクの研究員も南シナ海への中国「侵略」を念頭に、こう強調した。 「南シナ海問題が起こり、日本は経済協力を通じてフィリピンやベトナムへの関与を強め、巡視船の供与などによって日本は法の支配を広げていこうとしている。こうした経緯を見れば、アメリカからすると、日本はアジア太平洋の安全保障の要となっていると認識している」  インド太平洋地域の安定と平和を守るために現在のような戦略的な安倍外交がなくてはならないと、米軍関係者は認識しているわけだ。  日本はこれまで「アメリカの言いなり」「対米従属だ」と批判されてきたが、今や安倍首相の対アジア外交にアメリカが乗ってきているのだ。
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北朝鮮有事に連動して尖閣占領も
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。

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