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チケット1枚、本1冊売ることがどれほど大変なことか――演出家・作家 鴻上尚史が思うこと

― 週刊SPA!連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―  おかげさまで、新刊『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(講談社現代新書)は、発売5日で重版が決まりました。でっへーい! やったーい! その前の小説『青空に飛ぶ』(講談社)は、いまだ重版の声聞かず、アマゾンでは一時期、中古本扱いになったりして、悲鳴を上げました。  『不死身の特攻兵』も、発売して三日目に、いきなり「出荷まで一、二カ月お待ち下さい」という表示が出て、パソコンの前でのけぞりました。 舞台 僕は36年、演劇の演出家をしていて、つまりは、36年間、チケットを1枚から売っているわけです。  経済問題なんかを語ると、「経営の苦労も知らない作家が黙ってろ」なんてツイッターで突っ込まれることがあるのですが、とんでもない。  おいらは、劇団の主宰者であり、同時に、株式会社サードステージの代表として、30年以上、会社を経営してきてました。零細企業の社長として、30年以上、毎年税理士さんと、「あーでもない、こーでもない」と頭を悩ませているのです。  チケット1枚売ることがどんなに大変なことか、それはもう骨の髄まで染み込んでいます。  昔、初めて本を出した時に、いきなり、刷った部数分の印税を貰えて驚きました。「あれ!? まだ売れてない分も貰えるんだ」と戸惑いました。チケットと同じで、売れて初めて収入になると思っていたのです。 「そうかあ。作家さんは、本が売れても売れなくても、とりあえず、出版した分の印税を貰えるんだ。恵まれてるなあ」としみじみしました。  昔、タモリさんの『笑っていいとも』の「友達の輪」に呼ばれて、ミュージカルの宣伝を熱く語ったことがありました。  演出家として雇われた、別の制作会社が主催した作品でした。物語の内容を熱く語り、タモリさんにもぜひ見に来て下さいと迫りました。  その後、稽古場に行くとプロデューサーは顔を輝かせて、「鴻上さん! 宣伝ありがとうございます。おかげで、番組中に17枚売れました!」と弾んだ声を上げました。
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人生を描くのが作家、経済を知らずに何が書ける
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不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか

1944年11月の第一回の特攻作戦から、9回の出撃。陸軍参謀に「必ず死んでこい!」と言われながら、命令に背き、生還を果たした特攻兵がいた。


この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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