更新日:2018年02月06日 19:11
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韓国の保守派がうらやむ「国民の幸福を祈る皇室の伝統」――評論家・江崎道朗

江崎道朗のネットブリーフィング 第27回】 トランプ大統領の誕生をいち早く予見していた気鋭の評論家が、日本を取り巻く世界情勢の「変動」を即座に見抜き世に問う!

15年前、拉致被害者が帰国を決断した背景

皇居 北朝鮮をめぐる情勢が緊迫している。北朝鮮の核開発を容認するわけにはいかないが、だからと言って戦争となれば多大な犠牲が出る。なんとか外交交渉で解決しようと日本だけでなく、アメリカ、中国、ロシアなども懸命に動いているが、そのなかで気がかりなのが、北朝鮮に拉致されている横田めぐみさんら拉致被害者たちのことだ。  この拉致被害者の問題について、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(通称「救う会」)」の西岡力会長が「皇后陛下のお言葉」という極めて重要な一文を書いている(『WiLL』2018年1月号)。  15年前、平成14年10月15日、5人の拉致被害者が北朝鮮から帰国したときのことだ。5人は、子供らを北朝鮮に残したまま「2週間程度の一時帰国」という形式だった。5人は、東京のホテルに2泊した。そこでは、両親や兄弟、関係者が「日本に残れ」と説得しても、あくまで「北朝鮮に戻る」という建前を繰り返していた。  西岡会長はこう述懐している。 《救う会幹部として同じホテルに泊まっていた私は、彼らは洗脳などされていないが、北朝鮮に残した子供らが心配で、本音を公開の席では言えないはずだ、と考えた。だから、東京で無理に意思確認をする必要は無い、故郷に帰って安心させ、誰もいないところで本音を聞きましょう、と家族にアドバイスした。》  かくして5人はそれぞれ故郷のわが家に帰った。西岡会長は、地村保志さんの家に一緒に泊まった。その夜、保志さんは兄に本音を漏らした。西岡会長はこう続ける。 《隣の部屋で寝ていた私のところにお兄さんがやって来て「弟が、日本政府が守ってくれるなら日本に残りたいと言っています」と伝えた。これが漏れると北朝鮮に伝わり、子供たちに不利益なことが起こるかも知れないと判断して、翌朝、極秘で安倍晋三官房副長官と中山恭子参与にだけそのことを伝えた。》

拉致問題に触れた皇后陛下のお言葉

 その日の朝の新聞には、皇后陛下がお誕生日にあたり会見された記事が出ており、そこには次の一節があった。 《悲しい出来事についても触れなければなりません。小泉総理の北朝鮮訪問により、一連の拉致事件に関し、初めて真相の一部が報道され、驚きと悲しみと共に、無念さを覚えます。何故私たち皆が、自分たち共同社会の出来事として、この人々の不在をもっと強く意識し続けることが出来なかったかとの思いを消すことができません。今回の帰国者と家族との再会の喜びを思うにつけ、今回帰ることのできなかった人々の家族の気持ちは察するにあまりあり、その一入(ひとしお)の淋しさを思います。》  西岡会長は、この記事を読み、直ちに地村さんに見せた。 《私はその部分に赤丸をつけて地村さんに読んでもらった。あとで事情を聞いたところ、帰国前に北朝鮮で「お前たちはテロに協力した犯人とされているから、日本に戻っても冷遇されるだけだぞ」という教育を受けていたという。それが、国家テロの被害者であるにもかかわらず、日本政府が自分たちを守ってくれるかどうか不安で、日本に残る条件に「日本政府が守ってくれるなら」ということをつけた背景にあったのだ。  だからこそ、皇后陛下のお言葉は、祖国は自分たちを見捨てていないという確信を与える契機となったはずだ。》  その後の展開は御存じの通り、地村さんたちは日本に残ることになった。その決断の背後には皇后陛下のお言葉があったと、西岡会長は指摘しているのだ。
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国民の幸福を祈る皇室の伝統
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(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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