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藤波さんはにっこり笑い3階席に向かって何度も何度も手を振った――フミ斎藤のプロレス読本#163[新日本プロレス199X編08]

 フィニッシュ・シーンがまた“軟投”の藤波さんらしかった。  橋本のブレーンバスターを空中で切り返したチャンピオンがチャレンジャーの背後に着地し、そのままスリーパーホールド。スリーパーで橋本の上体が沈んでくると、こんどはドラゴン・スリーパーに移行。  ドラゴン・スリーパーが決まらないと、最後はグラウンドでの胴絞めスリーパーをぐいっとロックした。  タイガー服部レフェリーが試合終了のゴングを要請した瞬間、リングのなかの景色がスローモーションになった。  チャンピオンは、天井桟敷のお客さんたちに向かって何度も何度も手を振った。天上桟敷のそのまた向こう側には、武道館の3階席よりももっとずっと遠くでテレビの画面をにらんでいるお茶の間のプロレスファンの顔がみえているのだろう。  藤波さんはテレビの画面のなかでゆっくりとトシをとっている。 「糸を一本、残しておきたい。ねばりはそこだけ。アントニオ猪木。われわれの世代。幅の広いプロレス。長州力」  試合後の藤波さんのコメントは。短いセンテンスと単語のパズルだった。  白いTシャツにジーンズをはいた長州がバックステージをのしのしと歩いていた。坂口征二社長がにこにこしながら乾杯の音頭に参加していた。アントニオ猪木は不在である。  カメラマンの姿が視界に入ると、長州は「あっちを撮れ!」といって鼻の穴をふくらませた。 ※文中敬称略 ※この連載は月~金で毎日更新されます 文/斎藤文彦
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