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藤波さんはにっこり笑い3階席に向かって何度も何度も手を振った――フミ斎藤のプロレス読本#163[新日本プロレス199X編08]

藤波さんはにっこり笑い3階席に向かって何度も何度も手を振った――フミ斎藤のプロレス読本#163[新日本プロレス199X編08]

『フミ斎藤のプロレス読本』#新日本プロレス199X編エピソード8は「藤波さんはにっこり笑い3階席に向かって何度も何度も手を振った」の巻。藤波さんへの声援は、はじめの“ふ”のところに強めのアクセントをつけて“ふーじなみぃー”という発音になる(写真は新日本プロレス・オフィシャル・パブリシティ・フォト)

 199X年  藤波辰爾はにっこり笑い、日本武道館の3階席に向かって何度も何度も手を振った。  藤波さんへの声援は、はじめの“ふ”のところに長めのアクセントをつけて“ふーじなみぃー”という発音になる。  武道館は縦にも横にも広い“円形劇場”。リングはアリーナのどまんなかにあって、藤波さんはそのまたどまんなかに立っていた。  チャンピオンがチャンピオンベルトを肩から下げて、汗をぬぐいながらお客さんに手を振ったらショー・イズ・オーバーThe show is overである。  “昭和のプロレス”“平成のプロレス”という表現はもうやめにしたほうがいい。オジサンたちのプロレスが“昭和”で、若いひとたちのプロレスは“平成”ということにしておけば、だいたいのことは都合よく整理できてしまう。  でも、それは活字をつくる側にとってたいへん便利な定番のフレーズになっちゃってる場合が多い。藤波さんのプロレスは“古典派”。昭和と平成が一本の糸でしっかりとつながっている。  藤波さん自身が「歴代の(IWGP)チャンピオンでいちばん強いの」と形容した挑戦者・橋本真也は、スタンディング・ポジションでの打撃技で44歳のチャンピオンの肉体にこれでもかというほどの衝撃を与えた。  藤波さんは、橋本の右ローキックを左ももの裏にもらうたびに尻もちをつき、ケサ斬りチョップを食らえば崩れるように前のめりに倒れ、至近距離からの左ハイキックにはおもしろいように吹っ飛ばされた。  イメージとか印象とか、感覚的な視点から論じてしまうと、藤波さんは強くて強くてなにをやってもビクともしない怪物レスラーではない。  かといって、スピードとテクニックだけで対戦相手をほんろうするようなタイプでもない。体だってそれほど大きくないし、これが決まればジ・エンドという完全無欠のウィニングショットがあるわけでもない。  でも、からみつくようなレスリングで“打たせて取る”戦術を身につけている。だから、橋本の“いい当たり”がホームランにならない。  ときおり武道館にこだまする“おーっ”というどよめきは、みんながよく知っている“藤波辰爾”をちゃんと演じてくれている藤波さんへの感謝の気持ちをこめてのみんなからの“おーっ”だった。  橋本の蹴り足をキャッチしてドラゴン・スクリューの体勢に入れば“おーっ”。ドラゴン・スープレックスの映像が脳裏をかすめるフルネルソンも“おーっ”。  ちょっと間をおくために場外へエスケープすればパチ、パチ、パチと拍手が起きる。“ふーじなみぃー”の声援は、はじめの“ふー”にふんばったような強めのアクセントがつく。
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フィニッシュ・シーンがまた“軟投”の藤波さんらしかった
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