ドン・フライはまったく新しい“プロレスラー”のプロトタイプ――フミ斎藤のプロレス読本#162[新日本プロレス199X編07]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
ドン・フライは“なんでもあり系ファイター”のオーラを身にまとったまったく新しいタイプのプロレスラーのプロトタイプ(原型・試作品)である。
肩書はUFC(アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)第8回大会優勝と“ジ・アルティメット・アルティメット96”優勝。2本のチャンピオンベルトがしっかりとリングコスチュームの一部になっている。
セコンドのブラッド・レイガンズとともに両国国技館のリングに立ったフライは、すでにプロレスラーの形(なり)をしていた。
バイカー系の黒革のベストは、どちらかといえばプロレス仕様の衣装なのだろう。体につけているものは黒のショートタイツと黒のニーパッド。そして、くるぶしまでのレスリング・シューズ。
両手には指が自由に動くようにデザインされた格闘グローブをはめていて、黒革の手袋と黒革のベストのヘヴィーな組み合わせがどこか不思議なハーモニーを奏でている。
リングに上がった瞬間からすでにドラマははじまっていた。私服姿の小川直也がリングサイドに現れたとたん、フライはUFCのチャンピオンベルトを誇示しながら小川に向かって罵詈雑言のフルコースをぶつけた。
セリフがはっきりと聞きとれなくても、観客は小川とフライの関係をそれなりにちゃんと理解した。“UFCチャンピオン”と“柔道世界一”の闘いはすでに予告編の段階に入っていた。
異種格闘技戦は、やる側にとっても観る側にとっても、もうそれほど非日常的な体験ではない。純粋なプロレスではないプロレス空間の構築に、観客の目がすっかり慣れてしまっている。
それが異種格闘技戦であってもフツーのプロレスであっても、じつは観る側のアテテュード(姿勢、心がまえ)はまったく変わらない。わかりやすくておもしろいものはグッドで、わかりにくくて退屈なものはバッド。トーキョーのビッグアリーナをいっぱいにしているのは“情報”を持った観客層である。
スタンディングの体勢ではボクシング式の打撃系スタンス、組み合ったポジションでは打撃とレスリングの二刀流、グラウンドでは関節技というのがフライの基本スタイルだ。
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