新日本がカオスなのか、カオスが新日本なのか1999――フミ斎藤のプロレス読本#164[新日本プロレス199X編09]
橋本真也と小川直也の“新日本VSUFO”の闘いは、純粋なプロレスでも異種格闘技でもない、新ジャンルの実験の場となった。
格闘ファイターとしての“改造手術”を受けた(とされる)小川は、スタンディングの体勢では顔面狙いのパンチだけをくり出し、ロープサイドの攻防では両脚タックルにきた橋本の脊髄に上から鋭角的なエルボーを落とし、下からはヒザ蹴りを突き上げ、離れぎわにはやや後ろ向きになった橋本の顔を死角からズボッと蹴り上げた。
小川のなかにはプロレスのリングに上がって試合をしているという感覚はまったくなかったのだろう。
柔道着ではなく黒のショートタイツをはき、フィンガー・グローブを装着した小川の表情からはこれまでのようなおどおどした色は消え、そのかわりに不条理なくらいのキラー・インスティンクト(殺りく本能)のようなものがむき出しになっていた。
「おらおらおらー、ふざけんじゃねーよ。新日本ファンのみなさん、目をさましてくださーい」
マイクを通じて聞こえてくる小川の声はやや甲高く、その目の奥にはだれがみてもはっきりとわかるなにか異様なものが宿っていた。
いつのまにか、リングのなかには20人を超す大男たちがなだれ込んでいた。新日本プロレスとUFOの両セコンド陣による大乱闘がはじまったところで長州力が現れた。
「おい、それがお前のやり方なのか?」
液晶ビジョンに映った長州の口は、そんなんことを訴えかけているようにみえた。大混乱をデザインした“真犯人”とされるアントニオ猪木は、変装用の“1、2の三四郎”のゴムマスクで顔を隠し、1塁側ベンチのまえからこの大乱闘シーンを見物していた。
「最悪だよ、最悪。この団体は。選手をオモチャにしてる。腐ってるよ」
橋本―小川戦の直後、テレブ中継用の放送席についた蝶野正洋はこう吐き捨てた――。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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