新日本がカオスなのか、カオスが新日本なのか1999――フミ斎藤のプロレス読本#164[新日本プロレス199X編09]
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
佐々木健介は肩を怒らせ、鼻の穴をふくらませ、左右ににらみをきかせて、口のなかでなにかをブツブツとつぶやきながら入場ゲートに現れた。
黒のショートタイツに黒のリングシューズといういでたちは、限りなく素っ裸に近い。ていねいに日焼けした岩のような上半身は、それだけでリングコスチュームになる。
大仁田厚は、右手にはミネラルウォーターのペットボトル、左手にはスチール製のイスを持ち、くわえタバコで6万2500人の大観衆のまえに出てきた。
黒のライダース系の革ジャンの背中にはやっぱり“邪道”の二文字が殴り書きされている。右目の上にはケンカ仕様のバンテージが貼られていた。
バックスクリーン上の液晶ビジョンに超どアップで映し出された大仁田の顔は、もうすでにデキあがっていた。
カオスChaosとは“混とん”“大混乱”“無秩序”を表す単数形の名詞。ギリシャ神話では“天地創造による最初の神”“混とんの化身”を指す。
大仁田がいきなりパイプ・イスを健介の脳天に振り下ろすと、バコッという音とともにシートのところだけがスコンと抜け、残った金具の部分が“首飾り”状態になった。
大仁田は、健介のクローズラインを食らって斜めにキャンバスに落下した。
健介が仁王立ちで、大仁田はイモ虫状態。そういうシチュエーションがずっとつづくのかと思ったら、大仁田が手品を使って健介の顔に“火”を放った。
山本小鉄レフェリーはすぐにゴングを要請し、大仁田の反則負けをコールした。ドームのあちこちでちょっと控えめのブーイングが起きた。
「自分の体をごまかし、ファンをごまかし、世間をごまかしてやってきたやつ。オレにはそういうふうにしかみえない。あいつはただのバカだった」
健介は、意外なほど冷静に“邪道”との接触を分析した。ちょうど同じころ、1塁側ベンチ裏のプレスルームで報道陣をまえに独演会をおっぱじめた大仁田はすっかり開き直っていた。
「オレが“強い”とはひと言もいってない」
大仁田と健介がリングの上に残していった混とんの種みたいなものは、じつはこのあとに起こる巨大なカオスのプロローグにすぎなかった。
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