更新日:2018年02月28日 16:13
ライフ

知られざる川崎の貧困問題。若者を苦しめる地獄と希望

磯部氏

ルポを「他人事ではない」未来を考えるきっかけに

 川崎市ではヘイトスピーチ規制のガイドラインを制定するなど、一部の問題では状況が改善している部分もある。一方、問題が見えにくくなったのみで、状況があまり変わっていない側面もあるという。 「ラゾーナ川崎のような施設ができたり、街が変わったようにも見えます。実際、『川崎が綺麗になった』『ホームレスが減った』という声もよく聞きます。ただ、それはジェントリフィケーション(貧困層が住む地域に再開発の手が入り比較的豊かな層が流入。地域の経済、社会性、住民の構成が変化すること)であって、一方でラゾーナの近所には日進町の街が変わらずあり、そこでは働けなくなった老人たちが生活保護を受けて、簡易宿泊所で生活している。またホームレスの人達も、多摩川のほうに移動させられただけで、問題が解決したというよりは、それを見えないようにゾーニングしているだけ、とも言えます」
日進町

ドヤ街として知られる川崎区日進町の簡易宿泊所。写真/細倉真弓

 日本の社会問題が濃縮されたように描かれる『ルポ 川崎』。本書の帯にある「ここは、地獄か?」との言葉は、地元の書店に「これでは店に置けない」と言われるなど物議を醸したそうだが、読み通せばただの扇情的な言葉ではないことが分かる。 「『この言葉の真意が知りたいから、まず読ませてください』と書店員さんに言われたこともありましたし、読んでいただいたあとに『すごく意味がわかりました』って言ってくださる方もいました。作者としては『ここは、地獄か?』という問いかけの答えは、『ここが地獄なら、日本全体が地獄だ』ということなんですね。そして、その地獄から抜け出すためのカギも、川崎にあるのではないでしょうか」 【磯部 涼氏】 1978年生まれ。音楽ライター。主にマイナー音楽やそれらと社会との関わりについて執筆。著書に『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)、共著に九龍ジョーとの『遊びつかれた朝に』(Pヴァイン)、大田和俊之、吉田雅史との『ラップは何を映しているのか』(毎日新聞出版)、編著に『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社)など <取材・文/古澤誠一郎 撮影/山田耕司>
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ルポ 川崎

物議をかもした『サイゾー』本誌のルポ連載を大幅に加筆し、書籍化。上から目線の若者論、ヤンキー論、郊外論を一蹴する、苛烈なルポルタージュが誕生! 川崎の刺激的な写真も多数収録

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