雑学

知られざる川崎の貧困問題。若者を苦しめる地獄と希望

 不良勢力の頂点は暴力団で、劣悪な環境から抜け出す手段は、ヤクザになるか、職人になるか、捕まるか。中学時代に強盗で逮捕された経験を持つラッパーも登場し、彼らの口からは「日本刀持った友達の親に追いかけられた」「親戚のヤクザの指詰めを手伝った」という子供時代の思い出が語られる。「産業道路の向こう側なんて、中学生のポン中(覚醒剤中毒)とか、子供なのにでき上がったヤツ、いっぱいいますよ」という声まで飛び出す……。

磯部氏

音楽ライターとしても活動している磯部氏。川崎出身のラッパーたちの存在がルポを手掛ける大きなきっかけとなった

 話題の書『ルポ 川崎』(サイゾー刊)が伝える川崎市南部の貧困問題は壮絶だ。今回は著者・磯部涼氏に行ったインタビューの後編。前編でも触れた地元の不良少年たちが結成したヒップホップクルー・BAD HOPの話を中心に、深刻な貧困の実態と音楽をはじめとするカルチャーが果たす役割について聞く。

カルチャーは貧困の鎖から抜け出す希望


 川崎のルポルタージュである『ルポ 川崎』は、著者の磯部氏が音楽ライターということもあり、川崎市南部のラップをはじめとした音楽や、ダンス、スケートなどのカルチャーにも触れている。なかでもたびたび登場するのが、地元の不良少年たちが結成したヒップホップクルー・BAD HOPだ。ルポに登場する幼少期の逸話では「腹が減ったときはコンビニで飯を盗んで食っていた」「クリスマスプレゼントに靴下を頼んだが、それも買ってもらえなかった」といった貧困の現実が紹介される。

「この本に対する批判のパターンとして、『川崎の悪い側面を強調し過ぎだ』というものがあります。では、そう言う人達は、多文化地区の桜本で繰り返されていたヘイト・デモに反対するために現場に足を運んだり、いわゆるドヤ街の日進町や、かつて朝鮮部落と呼ばれていた池上町が抱えている貧困問題にコミットしたりしてきたのでしょうか。ただ、僕はこのルポで『川崎の南部は特殊な場所』と伝えたいわけでもありません。むしろ、そういった問題は誰の身近にもあるのに、あくまで 『特殊な場所』で起こっていることだと思い込んでいるのではないか。川崎市南部の場合、事件や文化が話題になったことで、問題が背景として注目されたわけですが、読者にはこの本を読むことで、今までとは違った視点で身の回りを見直してほしいのです」

AKDOW

BAD HOPの元メンバー、AKDOWの体に掘られたタトゥー。写真/細倉真弓

 中学時代に強盗などの犯罪に手を染め、少年院に入ったメンバーもいるBAD HOPの面々だが、メンバーのT-PABLOWが第一回と第四回、YZERRが第五回の『高校生RAP選手権』に優勝して以降、活動を本格化。彼らの楽曲やライブは、若い世代のみならずベテランのアーティストやHIPHOPリスナーからも幅広く支持されている。

 彼らの歌詞は川崎の現状を伝えるのみならず、日本が抱える貧困や移民、多文化共生の問題を映し出す鏡になっているようにも見える。スラム街出身のラッパーが、自らの生い立ちを歌詞にする……というのは、アメリカのラップには多くあるイメージだが、やはりラップはその種の表現に適した音楽なのだろうか。

「BAD HOPのメンバーがラップをはじめたのは、実は地元の先輩から『向こうのギャングはラップをやっているんだから、お前らもやれ』と半ば強制されてのことでした。ただ、彼らは次第にその魅力にはまっていったし、アメリカのラップについて調べてみたら、『どうやら向こうでも自分たちと似たような環境の若者たちがやっているらしい』と気づき、その表現行為が必然性を帯びていく。また、ラップというジャンルには、『自分自身について歌う』『地元について歌う』というお題目のようなものがあります。それを実践することで、嫌気が差していた自分の人生や、川崎という街を自然と肯定できるようになった……というふうに、一種のリハビリテーションとしても機能したのではないでしょうか」

 ルポではBAD HOPのみならず、音楽やダンスなどのカルチャーを通じて、川崎のしがらみや不良の道から抜け出し、表舞台へと出ていこうとする若者たちが描かれている。BAD HOPのT-PABLOWはルポの中で「川崎のひどい環境から抜け出す手段は、これまで、やくざになるか、職人になるか、捕まるかしかなかった。そこにもうひとつ、ラッパーになるっていう選択肢を作れたかな」と語っている。

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その瞬間を記録しておきたかった

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ルポ 川崎

物議をかもした『サイゾー』本誌のルポ連載を大幅に加筆し、書籍化。上から目線の若者論、ヤンキー論、郊外論を一蹴する、苛烈なルポルタージュが誕生! 川崎の刺激的な写真も多数収録




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